翡翠の一輪花【完】
(………誰、だろう)


私がまだここにいたころ……五年前には、ここに私のほかに女はいなかったのに。
────いや、分かっている。


ここにいることを許される女は、お嬢か………あるいは、幹部以上の婚約者だけだ。


さっき言われた言葉が、ゆっくりと意味を持ちはじめる。
――婚約者、なのかな。

いや、きっとそうなんだろう。




「で、えっと……」



少女がようやくこちらに気づく。

ぱち、と瞬きをしてから、にこっと笑った。


「この人が、葵さまの“お知り合い”ですか?」


別に悪意があるわけでも、嫌味でもない。
……ただ本当に、知らないだけの声。



「初めまして!」


ぺこり、と丁寧に頭を下げられる。



「葵さまの婚約者の、小鳥遊花梨ですっ」


その一言は、あまりにも純粋で真っ直ぐで。
………余計に、深く心に突き刺さった。




ピキッとその場の空気が凍る。
……けれど、彼女はそれにも気づかないらしい。


きらきらした目が、そのままこちらへ向く。


「翡翠さん……ですよね!?」

「……え?」


突然名前を呼ばれて、思わず間の抜けた声が漏れる。

少女……花梨はぱっと顔を明るくした。


「やっぱり! さっき組員さんたちが話してるの聞こえたんです…!!」


まるで好きな芸能人を見つけたみたいな反応。

ぐっと距離を詰められて、思わず少しだけ後ろに下がりそうになる。



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