翡翠の一輪花【完】




「……帰ってきてくれて、よかった」



その言葉が、ストンと胸に落ちた。
胸の奥が、じわっと熱を持つ。

何か言おうとしても、言葉が出てこない。


ただその空気に、少しだけ身を預けそうになった────その瞬間だった。






「葵さまっ……!!」


その場にそぐわない、ふわふわとした高めの声が響いた。


一瞬で、宴会場中の視線がそちらへ向く。


そこにいたのは、華やかな着物姿の少女───。

ぱっと見で分かるほどの“場違いなほどの育ちの良さ”。
きょろきょろと周囲を見回しながら、嬉しそうに笑っている。




「やっと、見つけましたっ」


無邪気な声。
そのまま当然のように、葵の隣へ駆け寄る。


「もうっ、葵さまったら、すぐにどこかいっちゃうんですから……!!」

「……」


葵の表情が、一瞬だけ止まる。
さっきまでの柔らかさが、少しだけ薄れる。



「勝手に動くな」


短い声。
でも怒ってはいない。

ただ、慣れたやり取りみたいな響きだった。

少女は一瞬きょとんとして、それから笑う。



「でも~、一緒に行く約束だったじゃないですかぁ」

「仕事だ」

「分かってますけどぉ」


ふくれっ面。
その仕草は完全に子供のそれだった。

……いや、傍から見たら”かわいい”仕草なのかもしれない。


────だけど。
そのやり取りを見ていると、胸の奥が小さく引っかった。





< 9 / 32 >

この作品をシェア

pagetop