翡翠の一輪花【完】
***


宴会がひと段落したあと、私はひとりで風呂場へ向かった。


……昔から変わらない、広い檜風呂。

湯気の立ちこめる静かな空間に、ようやく少しだけ肩の力が抜ける。



「……はぁ」


熱い湯に肩まで浸かりながら、ゆっくり息を吐く。

今日だけで、いろんなことがありすぎた。


組に戻ってきて。

紺に会って。

組長たちと話して。


――そして、葵。

五年ぶりに見た顔は、昔より少し大人びていて。
でも笑い方とか、声とか、そういうところは変わってなくて。

……だから余計に、苦しかった。



「……婚約者、か」


ぽつりと呟いた声が、静かな浴場に小さく響く。

あの距離感を見る限り、ちゃんと大事にしてるんだろうな。


そう思った瞬間、胸の奥が少しだけ痛んだ。


(……何期待してたんだろ)


自嘲するように息を吐いて、目を閉じる。

────そのときだった。




ガラッ


「翡翠さーん!」

「っ!?」


勢いよく扉が開く。

びくっと肩を揺らいて振り返ると、そこにはなぜか花梨が立っていた。


「……は?」


思わず素の声が出る。

花梨はそんなことお構いなしに、ぱたぱたと中へ入ってきた。


「やっぱりここにいたんですねっ!」

「いや、なんでいるの……?」

「えへへ、戻ってきちゃいました!」


まるで秘密基地に忍び込んだ子供みたいな笑顔。


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