翡翠の一輪花【完】


「……きれいだね」


ぽつりと呟く。


「ああ」


葵も同じように空を見上げた。


「私、ここから見る夜空、昔から好きだった」

「覚えてる」


「……え?」


思わず隣を見ると、葵が小さく笑った。


「ガキの頃、お前をよくここ連れて来てた」

「あぁ……懐かしい」


眠れない日とか。
嫌なことがあった日とか。

気づけば二人でここに座って、こうして空を見ていた。


「……変わってねぇな、ここ」



その声がやけに優しくて、胸の奥がじわっと熱を持つ。


しばらく黙ったまま夜空を見上げていると、不意に葵がこちらを見た。

────そのまま、そっと頬に手が触れる。



「……っ」

びくりと肩が揺れる。

……大きくて、少し硬い手。
昔よりずっと男らしくなった指先が、優しく腫れ物を扱うように頬を撫でた。


「……帰ってきてくれて、ほんとによかった」


………低い声。けれど、その奥には隠しきれない安心が滲んでいる。

そのたったひと言だけで、もう胸がいっぱいになりそうだった。



「……私も、会いたかった」

「……ああ」


葵が少しだけ目を細める。


「もう、会えねぇかと思ってた」

「そんなことないよ」

「……いや、ある」


静かな声だった。
でも、恐ろしく真っ直ぐだった。



「お前、急にいなくなるし」

「……ごめん」

「だから謝んなって」



困ったみたいに笑う顔が、昔と変わってなくて。

そのことが、どうしようもなく苦しかった。

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