翡翠の一輪花【完】
***


────朝。

まだ少し眠気の残る頭のまま大広間へ向かうと、すでに中は賑やかな空気に包まれていた。


湯気の立つ味噌汁の香りに、焼き魚の匂い。

昔と変わらない朝の光景に、思わず少しだけ肩の力が抜ける。



「あっ、翡翠さん…!!」


部屋へ入った瞬間、ぱっと明るい声が響いた。

見ると、花梨がぶんぶんと手を振っている。



「こっちです、こっち!」

「……朝から元気だね」

「はいっ!!」


………即答。
いっそのこと眩しいくらいの笑顔に、思わず小さく笑ってしまう。


花梨の隣へ座ると、周囲の組員たちがどこかそわそわした様子でこちらを見ていた。


「お嬢が戻ってきた朝とか、めちゃくちゃ久しぶりだな……」

「若も普通に朝飯来てるし……」

「今日は雪でも降るんじゃねぇか?」



ひそひそとどこからか聞こえてくる声に、思わず視線を上げる。

すると───その先には、少し離れた場所に座る葵の姿が。



ジッとその姿を見つめていると、ふいに視線を上げた葵と目が合った。


「っ………!」

葵と、目が合った。
それは、うれしい。

うれしい、けど………。


それと同時に昨夜のことを思い出して、一気に顔が熱くなる。


慌てて視線を逸らすと、隣の花梨が不思議そうに首を傾げた。



「翡翠さん? 顔赤いですよ?」

「っ、気のせい」

「ほんとですか?」

「ほんと」



味噌汁を手に取りながら誤魔化す。


………心臓が、うるさい。
まともに葵の顔を見られる気がしなかった。



キュッと浴衣の袖を握って、なんとか顔の熱を冷まそうとした。

────そのときだった。


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