翡翠の一輪花【完】
「花梨」


低い声が、あたりに響いて。
その声に反応するように、花梨がぱっと顔を上げた。

「はい?」


葵は湯呑みを置きながら、静かにこちらに視線を向けた。


胸に、淡い期待が芽生えた。
葵も昨日のことを意識してくれてるんじゃないか………って。


けれど───。

その表情はいつもの……”いつも通り”すぎる、落ち着いた若頭の顔だった。


「………後でちょっといいか」

「え?」


花梨がきょとんと瞬きをする。


「いいですけど……?」

「話が、ある」


たったそれだけの、短い言葉。


でもその声音は、昨夜みたいな柔らかいものではなくて。

……どちらかというと“仕事”の空気に近かった。



「わ、分かりました……?」

少しだけ戸惑ったように頷く花梨。


そのやり取りを見ながら、胸の奥が小さくざわつく。



(……話?)

なに、それ。
大事な事……?


思わず、昨夜のことを思い出してしまう。

あのキスも。
抱きしめられたことも。

───全部、まだ夢みたいなのに。




葵は、まるで何事もなかったみたいな顔で味噌汁に口をつけている。


………その横顔が妙に遠く見えて、私はそっと視線を落とした。


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