翡翠の一輪花【完】
EP.1 帰ってきたあの日
”高瀬組”――。
この辺りで、その名を知らない者はいない。
全国一とも言われる巨大組織。
一般人なら恐れて近づきもしないその屋敷の門の前で、私は盛大に足止めをくらっていた。
「おい、お前。ここがどこかわかってんのか?」
「高瀬組だぞ。お前みたいな女がふらっと来ていい場所じゃねぇんだよ」
………なぜなら、
門番の男たちが、完全に私を不審者扱いしているから。
……まぁ、それも仕方ないのかもしれない。
この二人、たぶん新入りだ。
見たことのない顔だし、私が誰かも知らないらしい。
「だから、私は――」
「しつけぇな。さっさと帰れ」
弁解しようと口を開くも、それすらも許さないようにぐいっと右腕を掴まれる。
……別に、痛くはない。
けど───。
「ねぇ、離してくれる?」
少し低い声で言っても、男は鼻で笑った。
「あ?」
「お前さ、状況わかって――」
バカにするように、男が口を開きかけた────次の瞬間。
「……おい、何してる」
低く響いた声に、その場の空気が一変した。
「「こ、紺(コン)さんっ!?」」
さっきまで威圧的だった男たちが、弾かれたように姿勢を正す。
その反応を横目に、紺はゆっくりこちらへ歩いてきた。
鋭い目が、私の掴まれている腕を見る。
「……お前ら」
静かな声なのに、背筋が冷えるほど怖い。
「まさか、その子に触ったのか?」
「い、いや……! 俺たちはただ、怪しい女が勝手に入ろうとしてたんで……!」
慌てて弁解する二人。
……でも。
それが紺の地雷だって、わかってない。
「怪しい女?」
ぴくり、と紺の眉が動く。
そして───次の瞬間。
「その“怪しい女”は、高瀬組のお嬢だ」
「「……へ?」」
重く低く落ちた声に、男たちの顔色が一瞬で真っ青に変わった。