翡翠の一輪花【完】
────聞いちゃダメ。
そんなの分かってる。
でも、どうしてか気になってしまった。
昨夜、あんなことをされたからなのか。
それとも――
花梨の隣にいる葵を、見たくなかったのか。
自分でも分からないまま、そっと襖へ近づく。
「ガキか、お前は」
「葵さま、それはひどいですぅ~」
呆れたような葵の声。
でも、本気で嫌がっている感じではない。
そのやり取りが妙に自然で。
胸の奥がざわざわする。
まるで、自分の知らない時間を見せつけられているみたいだった。
なんとなく、これ以上ここにいてはいけない気がして、その場からそっと離れようとした────その時だった。
「ちょ、花梨、近っ……」
障子に映る影が、大きく揺れた。
───まるで、抱き寄せるみたいに。
「────っ」
息が止まり、頭が真っ白になる。
────限界、だった。
二人にとって”当たり前”の日常で、私だけが振り回され───傷つくのが。
ボロボロと自分でもわからないなにかが崩れていくのと同時に。
───気づいてしまった。
(……もう、そこに私の席はない。)
今まで当たり前のように私がいたところには、花梨がいて。
葵も、どこか気を許していて。
たぶん、想い合っていて。
私の付け入る隙は、ないんだって───。