翡翠の一輪花【完】



「……無理しなくていいよ」


静かに落ちてきたその一言が、
胸の奥にじんわりと染み込んでいく。


「翡翠は昔から、ひとりで何でも抱え込むから」

「……っ」

「平気なふりして、無理して。………誰にも頼ろうとしない」


優しく言われているはずなのに、
全部見透かされているみたいで苦しい。



「……たまには、吐き出しなよ」

紺の指先が、
そっと私の頬を伝う涙を拭った。



「俺の前くらい、強がらなくていいから」




その声を聞いた瞬間───どうしようもないくらいに、胸が、ぐらりと揺れた。



────この人は。

葵が気づかなかったことも、
たった一目で見抜いてしまう。


………別に、
二人を比べたいわけじゃない。

そんなつもり、ないのに。



……その違いが、
今はどうしようもなく苦しかった。






「……俺なら」


不意に落ちてきた低い声に、心臓が跳ねる。


「そんな顔、させないのに」

「――っ」


息が止まった。


紺の指先が、
そっと涙を拭っていく。

触れられた場所が、
熱を持ったみたいにじんわりと疼く。


……その仕草が、あまりにも優しくて。

壊れてしまいそうなくらい、
安心してしまいそうで。




……一瞬だけ。

本当に、一瞬だけ。



───このまま、
この人に甘えてしまいたいと思った。



< 25 / 32 >

この作品をシェア

pagetop