翡翠の一輪花【完】
EP.5 ふれた指先



「――何してんだ、お前ら」


ふいに、低く落ちてきた声に、肩がビクリと揺れる。

反射的に顔を上げると、
少し離れた廊下の先に、葵が立っていた。



「……葵」



胸が、ぎゅっと痛む。

どうしてこんなタイミングで。
よりによって、今───。



葵の視線が、
私と紺の間をゆっくり往復する。


そして───。


その黒い瞳が、
涙で濡れた私の頬を捉えた瞬間。


わずかに、眉が動いた。



「……なんで、泣いてる」



低い声。

けれどそこに滲んでいたのは、
責める色じゃなかった。

心配。

――なのに。



今の私には、それが余計に苦しかった。


「……別に」


咄嗟に顔を逸らす。

見られたくなかった。
こんな情けない顔。

……こんな、ぐちゃぐちゃになった自分。



きゅっと紺の胸に顔をうずめたその瞬間。

紺が、小さく息を吐いた。



「……翡翠が泣いてたから、慰めてただけ」

「っ……」



わざわざ言わなくていいのに。

そう思った瞬間。


空気が、
ぴん、と張り詰めた。

葵の視線が、
ゆっくり紺へ向く。



「……慰める?」

「それくらい、見れば分かるよね」


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