翡翠の一輪花【完】
「……お邪魔、します」

「どうぞ」


軽い返事とともに、紺が門を開ける。

やたらと重厚な門をくぐって、敷地へと足を踏み入れた。

手入れの行き届いた和風の庭。
静かに佇む大きな屋敷。


どこも、昔のままだ。

――昔はここを、みんなで走り回っていたっけ。



「……なつかしいな」


ぽつりとこぼれた声は、自分でも驚くほどやわらかく、小さかった。



なにも、変わっていない。
……変わっていないのに。

───どうしてこんなに、遠く感じるんだろう。









「まずは、組長に挨拶かな」

「……そうだね」


紺は軽くうなずく。


「翡翠、場所わかる? 俺、ちょっと途中抜けてきたから、そろそろ戻らないと」

「それくらい、覚えてるよ。……むしろ、仕事中断させちゃって悪かったわね」

「いいよ。翡翠の方が大事だし」


さらりとそう言って、紺は笑う。
ね、とでも言うような、柔らかい笑み。

その瞬間、胸の奥に小さな違和感が落ちた。


――紺って、こんなに優しかったっけ。



………それに、なんだろう。
さっきから、空気が少しだけ甘い。


「……紺、変わったね」

「そう? 気のせいじゃない?」


軽く返されるその声も、昔よりずっと柔らかい。


「……長い間会ってなかったからかな」

「五年も、ね……」


その言葉だけで、紺の表情がわずかに曇った。

空気が、一瞬だけ重くなる。


「……ごめん、心配させたよね」


そう言いかけたとき。
紺が、私の言葉を遮るように口を開いた。


「じゃあ、ひとつだけ約束して」

「え────」


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