大槻くんの唇はイジワル
 うなずいた私の隣に、成田くんが座る。

「野本さんに来てもらえてうれしいです。俺、ずっと野本さんと話をしたかったんですよ」
「私と?」

 首を傾げると、成田くんは少し顔を赤らめて照れくさそうに口を開いた。

「実は、大槻に頼んだんです。野本さんを誘ってくれって」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がすっと冷めるのがわかった。

 なんだ。そういうことか。
 大槻くんが私を誘ったのは、成田くんに頼まれたからで、特別な意味なんてなかったんだ。

 そう思いながら、大槻くんのほうに視線を向ける。女の子たちの中心にいる彼は、私のことを気に留める様子もなかった。

 チクチクと刺すような胸の痛みに、ぎゅっとグラスを握りしめた。

 別に、傷ついてなんかいない。
 私はただ単に、彼の唇の形が好きだっただけで、恋愛感情を抱いていたわけじゃない。
 そもそも冷静になれば、唇なんてそんなに差があるものじゃないし。成田くんの唇だって……。

 そう考えながら成田くんの口もとを見た。

 私が黙り込んでいると、成田くんが「野本さん?」と首を傾げる。

「どうかしました?」

 そう言った彼の唇を見て、違うと思った。

 大槻くんの唇とは全然違う。
 厚みも、輪郭も、バランスも、色も、動き方も。大槻くんの唇の、あの奇跡的な造形とは、比べ物にならない。

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