愛しい俺様パイロットと、今日もいちゃいちゃ舌戦中
定年退職するまで飛行機の整備ひと筋で独身を貫き、甥である店主と会うたび、飛行機のロマンを語って聞かせる人だったのだとか。
店主自身は飛行機よりもロケットや宇宙に興味があったそうだが、その伯父さんに敬意を表して、接客スタイルは航空整備士風にしようと決めたらしい。
私は銀色のカウンターに手をのせ、背の高いスツールに腰かけようとお尻を持ち上げる。
その直後、隣の席にいた男性がこちらを向き、脳裏に『げっ』というふた文字が浮かんだ。
「……七里か。偶然だな」
そう言って、形の良い眉を片側だけ上げた美形男性は、先ほどのフライトで一緒だった深澄さんだった。
薄いブルーのシャツにスラックスを合わせた、涼しげな通勤着スタイル。スツールに座ると床に足がつかない私とは対照的に、すらりとした長い脚を持て余したように組んで、優雅に腰かけている。
「深澄……さん」
どうしよう、来たばかりだけど帰りたい……。
プライベートでは極力関わりたくないのに、仕事の前後に空港内ですれ違ったり、稀に空港の外で会ったりすると、深澄さんは毎度のようにわざわざ声をかけてきて私をからかう。
過去のある出来事をきっかけに、私が彼に対して敵対心たっぷりの態度を取るようになったのが面白いらしく、おもちゃにされているようなのだ。
今ならまだ注文前だし、おおらかな最上さんなら急に帰ると言っても気を悪くしたりしないよね。