愛しい俺様パイロットと、今日もいちゃいちゃ舌戦中

『……最上さん、ネグローニ』
『あれ、帰らないの? まさか店内で喧嘩を始める気じゃ』
『そんな大人げないことはしません。彼女たちの話は聞かなかったことにしますよ』

 最上さんはホッとしたような顔をして、俺のためにネグローニを作ってくれる。

 俺はその後も気配を殺して静かに酒を飲んでいたが、騒がしい店内の中でも俺の耳は綺美の声を拾って、無意識に反芻する。

 会話の八割が俺の悪口なのに、不愉快にならないのが不思議だった。

 それどころか、彼女が俺のことで感情的になってくれるのなら、もっと嫌われてみるのもおもしろい、なんて考えまでが浮かぶ。

 どんな形でもいいから、綺美の心に爪痕を残し、彼女の色々な表情が見たい――。

 いくら酒に酔っているとはいえ、これはただの後輩に対して抱く感情ではないと気づいて、俺たちを隔てている何人かの客越しに、綺美の方を盗み見る。

 月を模した照明の下で艶めく長い髪、ほんのり赤く染まった頬、友人へ向ける気の抜けた笑み、グラスに添えられた華奢な指先……。その一つひとつにかけがえのない美しさを感じ、鼓動が揺れる。

 そんな経験は初めてだったので軽く驚くとともに、彼女は自分にとって特別な存在なのだと気づいたのだった。

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