愛しい俺様パイロットと、今日もいちゃいちゃ舌戦中
私は知隼さんの背中からそっと顔を出し、虎須目さんのいる方向を見る。
彼は私が姿を見せるのを待ち構えていたのか、即座に視線が合った。
その目に残酷な色が浮かんでいる気がして、ぞくりと寒気が走る。次の瞬間、十メートルほど先にいた彼が、こちらに向かって走り出した。
私を見つめる目は大きく見開かれ、他の物は一切目に入らないという様子だ。
しかし、それ以上にゾッとしたのが、彼の右手に握られた刃物に気づいた瞬間だった。
あれは、包丁……?
初めて人から明確な殺意というものを向けられ、あまりの恐怖で私はその場にぺたりと座り込む。
しかし、すぐに虎須目さんの姿は見えなくなった。ほんの一瞬の隙に、知隼さんが彼に飛びかかったからだ。
ふたりは激しく揉み合い、包丁の先がピッと、知隼さんの頬に小さな切り傷を作る。
「離せ……っ。悪いのはこの女だ……! 男と見れば誰でも誘惑する尻軽め……!」
「独りよがりもいい加減にしろ! 彼女はそんな女じゃない。お前は単に相手にされなかっただけだ」
体格は知隼さんの方が明らかに勝っているので、激しい抵抗もむなしく、虎須目さんは彼に羽交い絞めにされる。
やがて虎須目さんの右手に握られていた包丁が、鈍い金属音を立てて地面に落ちた。
「綺美、警察を呼べるか?」
「は、はい……っ」
我に返ってスマホを操作し、110番通報をする。
パトカーの音が近づいてくる頃には虎須目さんも抵抗をあきらめていたが、駆けつけた警察官に『これであの女を刺す気だった』と自ら説明したため、手錠を掛けられて逮捕された。
私と知隼さんはその場で事件発生時についての聞き取りを受け、これまでのストーカー被害と併せて、また後日警察署で詳しく話を聞かせてくださいと依頼された。