赤ちゃんに虐げられているので離縁いたします!と叫んだら三秒で瞬殺されました
「…………あ」

カーテンから差し込む光が、完全に午後のものだ。
アリアナは跳ね起きた。

「テオ!?」
「ここにいる」

エルリックが肘掛け椅子に深く腰かけ、テオを胸元に抱いてうとうとしていた。
テオはすやすやと眠っている。父子そろって、幸せそうに。

「……殿下」
「ん、起きたか」
「ずっといてくださったのですか」
「乳母に頼もうとしたら、お前が心配だからこのままでいい、と言った自分を思い出したので」

アリアナは枕に顔を埋めた。

「……恥ずかしい……」
「よく眠れたか?」
「……はい。それはもう、死ぬほど」
「それは困る」

笑いを含んだ声がして、エルリックはテオをそっとベビーベッドに戻し、寝台の端に腰を下ろした。

「頑張りすぎだ、お前は」
「でも、テオが——」
「テオはそのうち寝るようになる。少しずつな」

大きな手が、アリアナの爆発した髪をそっと撫でた。

「俺もいる」
「…………」

アリアナはぐずぐずと布団から出てきて、エルリックの肩に頭をもたれさせた。

「……殿下も少し寝てください」
「お前が起きてるのに寝られるわけがないだろう」
「強情」
「誰に似たんだか」

しばらく、ふたりで黙って、すやすや眠るテオを眺めた。

「……かわいいですわね」
「ああ」
「虐げられていますけど」
「それはお前が負けすぎだ」
「指を握られたら誰だって負けます」
「まぁ、俺も負けるがな」

エルリックが小さく笑った。
耳元に唇が触れて、アリアナは耳まで赤くなった。

「虐げられた分、俺がお前を甘やかす。明日も頑張れそうか?」

アリアナはテオを見た。
ぷくぷくのほっぺ。小さな拳。天使みたいな寝顔。

「……はい」

間髪入れず答えてから、付け足した。

「でも、また離縁を宣言するかもしれません」
「そのたびに抱き込むから安心しろ」
「……どちらの話ですか」

エルリックは答えなかった。
ただ、少しだけ、引き寄せる腕に力が入った。

その夜も、テオは元気いっぱい泣いた。
でも二人がかりなら、きっとなんとかなる。
ただし翌朝、今度はエルリックのほうが先に『離縁』を口走っていた。
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