この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 ***
 通話を切ると同時に宏臣はゆっくりと体を預けた椅子を、窓のほうにぐるっと回転させた。
 手元のスマートフォンをくるりと指先で回す。

 (……ようやく頼ったか)

 小さく息を吐く。
 あの性格だ。ぎりぎりまでひとりで抱え込んでいるだろうという予想は当たっていたようだ。
 先日、食事をしていたときに彼女が意図せず漏らした『菓子メーカーから依頼されてる案件がちょっと……』という言葉に、宏臣は引っ掛かっていた。

 もしかしたら自社の傘下であるタカラ製菓なのではないかと。彼女を疲弊させているものはなんなのか、調べはすぐについた。その資料を手に入れるなど造作もないことだった。

 「随分と熱心ですね」

 背後から、落ち着いた声がかかる。
 振り返ると、いつの間にかデスクのそばに日高が立っていた。

 「やけに入れ込んでいらっしゃるように見えますが」

 柔らかな物言いだが、視線は鋭い。
 宏臣は特に隠す様子もなく、視線を戻した。

 「そう見えますか」
 「はい。業務の範疇を少々逸脱しているかと」
 「そうですね」
< 101 / 172 >

この作品をシェア

pagetop