この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 あえて御曹司には触れず、さらりと流す。これはリストの三つ目に掲げたものだ。肩書きに興味を示さない。
 大企業の御曹司として生を受けた人間なら、普段からその肩書きを武器として使っているだろうと考えたゆえの作戦である。それを無視することで彼の自尊心を傷つけ、二度と会いたくないと思わせたい。
 宏臣の眉が、ごくわずかに動いた。

 「家のことには、あまり興味が?」
 「ええ。正直に言うと、東城さんの会社についてもよく知らなくて」

 嘘も方便。彼の父親が社長を務める『東城ホールディングス』は、知らない人間のほうが珍しい。国内外の企業をいくつも傘下に抱え、ニュース番組の経済コーナーでは常連だ。
 テレビをつければ、どこかの時間帯で必ず関連会社のCMが流れている──そんな存在感のある巨大グループである。

 だからこそ、『よく知らなくて』と言われた瞬間、宏臣の眉がわずかに揺れたのも無理はない。彼にとって家名は、名刺よりも先に相手の態度を変える最強のカードのはずだから。

 生クリームをたっぷりすくい、ためらいなく口へ運ぶ。

 「その人自身がどういう方かのほうが、私は気になります」

 自分で言っておきながら、少しだけ本音が混じったことに気づく。
 けれどそれも作戦のうちだ。
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