この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 大きな窓から見えるビル群を一瞥してから、プレジデントチェアにゆったりと腰を下ろす。ノックの音に返事をすると、秘書の日高がコーヒーを持って入室した。
 端正な顔立ちに無駄のない動き。冷静沈着で仕事も隙がなく、東城コンツェルン副社長の秘書として申し分ない男だ。三十七歳と宏臣より六つ年上で、少し癖があり油断ならない男である。

 「副社長、コーヒーをどうぞ」

 日高はデスクの脇にカップを置いた。
 湯気の立つ黒い液体から、ほのかな香りが立ちのぼる。

 「ありがとう」

 宏臣はネクタイをわずかに緩め、カップに手を伸ばした。
 会議中は一切表情を変えなかった日高だが、こうしてふたりきりになると、わずかに肩の力を抜く。

 「先ほどの会議、役員の皆さんもずいぶん緊張しておられましたね」
 「そうでしたか?」

 宏臣が惚けてコーヒーをひと口含むと、日高は小さく息をついた。

 「副社長の鋭さが怖いのでしょう」
 「それは心外ですね。こんなに穏やかな人間がいますか?」

 宏臣が肩をすくめると、日高はわずかに眉を上げた。
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