この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 聞き覚えのある声が耳をかすめる。視線を向けると、人垣の向こうからひとりの女性が歩いてきた。愛理だ。
 だが、その姿を見て宏臣は目を瞬かせた。彼女は、小柄な老婦人を介助していたのだ。
 令嬢らしからぬその様子に、宏臣はわずかに眉を上げる。少なくとも、東城家の縁談の席で見てきた令嬢たちなら、まず取らない行動だ。

 「もうすぐお孫さんに会えますからね」

 優しく声をかけながら、ゆっくりと歩いてくる。そしてロビーの中央まで来たところで、宏臣と目が合った。

 「あっ……」

 彼女が驚いたように声を漏らした。
 宏臣はすぐに歩み寄り、老婦人を支えるように手を添えた。

 「どちらまで?」
 「あ、えっと……お孫さんとラウンジでお待ち合わせだそうなんです」
 「そうですか。では、そこまでご一緒しましょう」

 老婦人の腕を支えながら、宏臣はゆっくりとラウンジのほうへ歩きだした。

 (……こういうことを自然とできる女性なのか)

 珍しい行動をする愛理の横顔をそれとなく見た。
 約束の時間を過ぎても彼女が現れなかったとき、なにか事情でもあるのだろうかとは思った。場所が分からないのかもしれないし、ホテルの中で迷っている可能性もある。
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