この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 会話の端々ににじむ価値観や、ふとした振る舞い。そういう小さな違和感を見つけては、心の中で線を引いてきた。

 ところが今は、逆だ。
 目の前の女性は、結婚相手としてはむしろ減点されそうな話ばかりしている。推しを最優先にすること。公演のためなら地方へも飛ぶこと。グッズで部屋が埋まること。
 普通なら、そのどれかひとつで、この縁談はないと判断してもおかしくない。

 それなのに、自分はどうしている。彼女の言葉のひとつひとつに、淡々と理屈をつけては問題ないと返している。まるで、断る理由を探すどころか彼女が離れていかないように、先回りして道を塞いでいるみたいだ。

 おかしい。これまで、こんなことは一度もなかった。

 縁談は合理的に進めるものだ。家同士の釣り合い、条件、将来性。そういったものを冷静に見極め、感情を挟まないことが一番うまくいく。
 それがわかっているのに、目の前で困った顔をしているこの女性に対してだけ、どうしても同じやり方ができない。

 自分は今、初めてのことをしているらしい。断る理由ではなく、この縁談を続ける理由を探している。
 そんな思考に行き着いた直後だった。

 「あとですね」

 愛理が、どこか決意したような顔で口を開いた。
 まだ続くのか、と宏臣は内心で思う。
< 54 / 172 >

この作品をシェア

pagetop