この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 心臓がどくんと大きく鳴る。

 「あなたは? 少しも楽しくなかったですか」

 宏臣は静かに問いかけた。

 「そ、それは……」

 言葉が喉の奥で引っかかった。否定しようと思うのに、頭の中に浮かんでくる光景がそうさせてくれない。

 「……楽しかった、です」
 「では、推しより上にいけるか、ぜひとも試してみたいですね」
 「な、なにを言ってるんですか」

 (この人、本当におかしい)

 「とにかくダメなんです。楽しかったのは本当ですけど、だからって結婚なんて――」

 そこまで言ったところで、言葉を止める。宏臣の表情が変わっていたのだ。さっきまでの穏やかな空気が、すっと引いている。
 静かにこちらを見ていた彼が、ゆっくり一歩踏み出した。ビルの外壁に片手を突き、帆奈美を見下ろす。

 (な、なに……?)

 逸らすこともできない鋭い眼差しを向けられ、息を呑んだ。

 「逃げられると思ってる?」
< 77 / 172 >

この作品をシェア

pagetop