この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 その声には、先ほどまでのやわらかさは影もない。

 「……え」

 思わず後ずさろうとしたが、背後にはすでにビルの壁がある。逃げ場がない。
 宏臣は、帆奈美の退路を完全に塞いでいた。
 そのまま少しだけ身を屈め、目線を合わせる。口元には薄っすらと笑みが浮かぶ。けれど、その笑みはどこか黒い。

 「あなたがダメだと言えば、俺が素直に引き下がるとでも?」

 それまで〝僕〟呼びだった宏臣が、いきなり〝俺〟に変える。

 「残念だが、あなたを気に入ったから、簡単に諦める理由が俺にはない」

 逃げ道を断ち切るように、はっきり言いきった。今まで仮面を被っていたのか、言葉遣いまで変わっている。
 帆奈美の心臓が、ばくばくと暴れはじめる。

 (なにこの人……)

 穏やかで理性的な人だと思っていたのに。目の前にいる宏臣は、まるで獲物を逃がさない捕食者みたいだ。
 宏臣は、そのまま帆奈美の手首を軽く取った。

 「とりあえず、話は落ち着いてからにしよう。腹減ってるだろ」
 「え、ちょっと……!」
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