この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 有無を言わせない調子で歩き出す。引きずられるようにしてついていくしかない。

 (なんでこうなるの……!?)

 頭の中は混乱したままだったが、不思議とその手は強引なのに痛くなくて、振り払うタイミングを失ってしまう。
 ビルの前に停まっていた黒塗りの車のドアが、タイミングよく開いた。運転席には前を向いたまま無言の運転手がいる。

 「どうぞ」

 当然のように促され、気づけば乗せられていた。
 車が静かに走り出す。
 沈黙が流れる中、ちらりと隣を見る。宏臣はスマートフォンを操作していて、さっきまでの圧のある空気が少しだけ和らいでいた。

 「急に連れてきて悪かった。でも、ちゃんと話したかったんだ」

 優しい声色は、先ほどの強引さとは程遠い。真摯に謝罪されれば、逃げるのは筋違いとも思える。なにしろ今回の件は、帆奈美が大々的に悪者だ。

 やがて車は落ち着いた雰囲気の通りに入り、重厚感のある店構えの前で静かに止まった。
 木目と石材を基調にした外観は、華美ではないのにひと目で高級店とわかる佇まいだ。

 (……ここ、絶対高いお店だよね)

 そう思ったものの、口に出す余裕はない。
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