この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 宏臣に促されるまま中へ入ると、すぐにスタッフが頭を下げた。

 「いらっしゃいませ、東城様」

 慣れた様子で案内され、通されたのは個室仕様の鉄板焼きカウンターだった。
 外の喧騒が嘘のように静かで、やわらかな照明が落ち着いた空間をつくっている。目の前には磨き上げられた鉄板が広がり、ほのかに温もりを感じる。
 椅子に腰を下ろした瞬間、ふっと肩の力が抜けた。

 「久しぶりね、宏臣」

 奥から現れたのは、落ち着いた気品をまとった五十代後半の女性だった。目鼻立ちがはっきりとした美人だ。コック帽に真っ白なコックコートとシンプルな装いながら、ただ者ではない空気がある。

 「急に悪い」
 「あなたが急じゃないときなんてあるの?」

 ふふっと上品に笑う。その距離感に彼との親しさが滲み出ている。よく来る店なのだろう。もしかしたら車の中でスマートフォンを操作していたのは、このためだったのか。

 「こちらは?」

 穏やかな視線が帆奈美に向けられた。
 なんと名乗ったらいいのか迷って言葉に詰まる帆奈美の横で、宏臣がさらりと言う。

 「俺が結婚したいと思ってる相手」
 「えっ!?」
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