この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 「昔から、疲れたときは喜和子さんが焼くステーキを食べるのがお決まりだった」

 ぽつりと宏臣が言う。その声音は、どこか懐かしむようでやわらかい。

 「そうなんですか?」

 帆奈美が聞き返すと、宏臣は軽く頷いた。
 鉄板を挟んで喜久子が、その通りだという様子で微笑む。

 「仕事で立て込んだときとか、面倒なことが続いたときとか。ここに来て、なにも考えずに食べる」

 シンプルな言い方なのに、不思議と重みがある。それだけ、この場所が彼にとって特別なのだろう。

 「東城さん、お疲れなんですか?」

 何気なくそう尋ねた。
 今日の強引さや、少し荒っぽい言葉遣いを思い出すと、そういう日だったのかもしれないと感じたからだ。
 すると宏臣は、ゆっくりとこちらを見た。

 「キミがね」
 「……え?」

 一瞬、意味がわからなかった。

 「見ていればわかる。仕事で疲れてるんだろ」

 図星を突かれたため目を見開く。今日の仕事は、いつも以上にハードだった。次から次へと案件が飛び込み、ゆっくり息をつく暇もないほどに。
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