この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 (でも、どうしてそんなことに気づいたの?)

 隠していたつもりだった。多少疲れていても、それを表に出すことなんてない。いつだって、周りに気を配る側でいるのがあたり前だったから。
 言葉も返せずにいると、彼が付け加える。

 「まぁ、俺がそのまま引っ張り回してるからってのもあるだろうけど」

 自嘲気味に笑った。
 その笑みは、これまで帆奈美が見てきたものとはどこか違っていた。やわらかく整えられたものではなく、ほんのわずかに口角を歪めるような力の抜けた笑い方。自分を少しだけ皮肉っているようでいて、同時にそれを受け入れているような不思議な色を帯びている。
 完璧に見えていた人の、ほんの小さな綻びが垣間見えた気がした。

 (……こんな表情もするんだ)

 なぜか、彼の顔から目が離せない。
 これまで見てきたのは、穏やかで隙のない、いかにも正しい笑顔ばかりだった。誰に対しても失礼がなく、場を和ませるための、いわば完成されたもの。
 けれど今のそれは違う。少しだけラフで、どことなく本音が滲んでいる。そのぶん距離が近い。
 胸の奥を、不意に掴まれたような感覚がした。心臓が、わずかに跳ねる。

 (こんなふうに不意打ちみたいに距離を詰められると困るんだけど……)

 ただでさえ断ろうとしている相手なのに、こんな顔を見せられたら――。
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