この縁談、謹んでお断りいたします〜身代わりお見合いのはずが、冷徹御曹司の運命の花嫁になりました
 帆奈美は慌てて視線を落とした。

 「べつに、これくらい疲れてなんて……」

 いつものように言いかけて、言葉が止まる。
 宏臣は、じっとこちらを見ていた。逃がさないというような強さではなく、ただ、見透かすような静かな視線だ。

 「〝これくらい〟で済ませるの、癖になってるだろ」

 まさにその通りのため返す言葉が見つからない。

 「たまには認めろよ。疲れてるって」

 低く落ち着いた声が、やけに優しく響く。
 そんなふうに誰かに心配されたことは、これまであっただろうか。
 〝大丈夫?〟〝無理してない?〟と問いかけられる側になるなんて、ほとんどなかった。

 鉄板の上で、じゅうっと音を立てて焼かれる肉の香りが、ふわりと広がる。

 「……そうですね、疲れてます。仕事がうまくいかなくて」
 「うまくいかないとは?」
 「菓子メーカーから依頼されてる案件がちょっと……」

 話しだしてハッとする。そんなことまで打ち明けてどうするというのか。
 帆奈美は口を真一文字に結んだ。

 「今日は考えるのやめて、食べることだけ考えたらいい。今日は俺が甘やかしてやる」
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