顔も知らない婚約者様の御子を一夜で授かりまして

「一週間後の夜、あの酒場で内々に祝ってもらえることになった。――君も来るだろう?」
「時間までにラピスが寝てくれたらね」
「ああ、よく眠ってくれるよう、昼間は全力で遊んでもらおう」
「ふふ」
「ねえ! なにひそひそばなししてるの!?」

 すかさずラピスが割り込んできた。カティアたちの間にぐいぐいと身体をねじ込み、不満そうに頬を膨らませている。

「それは……」

 苦笑いを浮かべるセオに、ラピスはぷうっと頬を膨らませたまま宣言した。

「だったらぼくも、かあさまとひそひそばなしするもん」

 カティアの手を引っ張り、こっちこっちと招く。
 少し屈んで耳を貸すと、ラピスは声をひそめて――けれど全く小声になっていない声でこう言った。

「かあさまがけっこんしたら、おとうとかいもうと、できるんでしょ? いつ?」
「え!?」

 思わず大きな声を出し、みるみるうちに頬が熱くなる。
 ちゃっかり聞こえていたらしいセオが、向こうで肩を揺らしていた。

「けっこんしたらできるって! とうさまいってたもん!!」
「ちょ、セオ!?」

 真っ赤なまま訴えると、セオは悪びれもせず笑みを深くする。

「すまない。ラピスに訊かれて、つい。――気が早かったか?」
「え、ええと……」

 そんなことはない。
 こうやって笑い合える家族の輪がもっと広がったら、もっともっと素敵だと思うから。

 けれど、返事に困る。わたわたするカティアをよそに、セオは迫真の顔でラピスに語りかけていた。

「ラピス、弟や妹はな、とうさまとかあさまがうんと仲良くしていないとできないんだ。お前も協力してくれるか?」
「もちろん! ――いまもなかよしだけど、もっと?」
「ああそうだ。もっと、もっと仲良くしないと」
「セオ!? なに言ってるのよ!!」

 顔から火が出そうだ。
 セオは完全に楽しんでいる。ラピスはきょとんとしているし、もう心臓に悪すぎる。

「陛下! そろそろ時間っスよ」

 絶妙なタイミングで、フロゥが呼びにやってきた。
 その後ろにはレスターの姿もある。いつもの黒装束ではなく、きちんとした正装に身を包み、眼鏡をくいっと押し上げている。

「ああ――行こうか」

 セオがカティアに手を差し出す。

「いこう! いこう!」

 ラピスがその手の間にぎゅっと入り込んで、三人分の手を無理やり重ねた。

 カティアは笑った。セオも笑った。
 開かれた扉の向こうに、明るい光が溢れていた。


 Fin.
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