一番星にキスをする
「まぁ私は恋愛体質っていうのもあるけどね。常に恋していたい人だから。それで? 今のは誰の話なの?」

 不敵な笑みを浮かべて、真っ直ぐにこちらを見つめる目に、嘘をつくのが心苦しい。

 聖はぱっと目を逸らし、「そ、それは秘密」とだけ口にした。

「えー、秘密にされると逆に気になるー」

 その時だった。

「なんの話してるの?」

 声がした方を見上げると、同じ課の先輩である沢井(さわい)宗弥(そうや)が爽やかな笑顔を浮かべて、二人を見下ろしていた。

「女子がコソコソ話をするとしたら、一つしかないじゃないですか。恋バナですよ、恋バナ」
「へぇ、俺も混ざりたいなぁ」
「残念ながら男子禁制なんです」

 宗弥はモテるというよりは、頼られるタイプの男性だった。

 誰にでも人当たりが良く、励ますのも上手いため、彼を慕う後輩は多い。

 さらに黒髪の短髪に、いつも朗らかな笑顔。誠実という言葉を絵に描いたような彼は、上司からの信頼も厚かった。

 そんな宗弥が美穂を狙っていることを、聖はわかっていた。きっと美穂本人も感じているに違いない。

 聖と美穂の二人に声をかけているように見えて、実は視線は美穂だけを見据えているのだから。

 ただそれが明白に現れ始めたのは、一ヶ月ほど前に美穂が四人目の彼氏と別れてからのことで、宗弥に声をかける美穂を見ることが徐々に増えていった。

「そんなに怒らないでよ。二人が楽しそうだから気になったんだ」

 苦笑しながらそう言った宗弥の言葉に、聖は違和感を覚えた。

(怒ってた? 普通に笑顔で答えたように思えたけど)

 聖には見えていない何かがあるようにも感じたが、宗弥は「邪魔しちゃってごめんねー」と言いながら去っていった。

「最近よく話しかけられるよね」
「そう? 前と変わらないよ。それよりさっきの話の続き」
「だからそれは秘密」

 美穂が何故かニヤリと笑い、「それってもしかして──」と口にした時だった。

「丸山」

 宗弥とは違う方向から名前を呼ばれた聖は、その声の主が誰かわかり、心臓が大きく弾んだ。

 ゆっくりと振り返ると、眉間に皺を寄せた修がこちらに向かって歩いてくるのが見える。

「うふふ、噂をすればなんとやら」
「噂?」

 不思議そうに目を(しばた)かせた聖だったが、突然修に手首を掴まれ、体をビクッと震わせた。

「ちょっと付き合って欲しいんだけど」
「えっ、今?」

 困惑した様子で口をぱくぱくさせた聖だったが、美穂が笑顔で、「どうぞー。食器は片付けておくから安心して」と二人に手を振ったため、彼女の言葉が終わらないうちに、修に手を引かれて食堂の外へ連れ出された。
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