一番星にキスをする
* * * *

 妙な気分だった。

 強引に手を引かれているのだから、抵抗することは出来たはずなのにしなかった。

 同期とはいえ、普段は別の部署にいる二人が、こうして一緒に移動をしているのはきっと他人には不思議な光景に見えるに違いない。

 この時間は誰も使っていない会議室のドアを開け、中に入るなりドアを閉めた修に、勢いのまま壁に押しやられる。

 やや感情的になっているような修は、眉間に皺を寄せたまま、ムスッとした様子で唇をギュッと結んでいる。

「いきなりどうしたの? ちょっとびっくりした」
「……沢井さんと、仲良いの?」
「えっ、沢井さん?」
「さっき話しかけられてたじゃん」

 あれは美穂に声をかけていたというのが正解なのだが、修の位置からはそれが見えなかったのかもしれない。

 そう思った瞬間、胸がキュンと締め付けられたが、それと同時にモヤモヤとした感情も生まれる。

 あんなことを宣言したにも関わらず、彼はこの三日間、何も行動を起こさなかった。

 だからあの言葉は実は夢だったのではと思い始めていたくらいだ。

「……意味がわかんない」
「えっ?」
「だって……あんなこと言うし、そんな顔するのに……覚悟して待ってたのに何もしてくれないし……」

 秘めていた想いが、少しずつ口から溢れ出す。

 修の顔をまっすぐに見られず、聖は恥ずかしくて顔を背けた。

「それって、期待してたってこと?」
「し、知らないっ……」

 彼が今どんな表情で自分のことを見ているのか気になったが、それを確認する勇気は出ない。

 しばらくの沈黙が続いた、その時だった。

「あぁ、もう無理だ……我慢出来ない……」

 修が絞り出すように呟いた途端、突然抱きしめられて首元にキスをされたのだ。

「えっ……ちょっ、ちょっと牧川!」

 状況が飲み込めず、彼の体を引き剥がそうと抵抗してみたが、あまりにも体が隙間なく密着し過ぎているためか、びくともしない。

 修は吸い付くようなキスを繰り返し、時折舌先で肌を舐めるので、くすぐったくて腰が抜けそうになる。

「……一回目の同期会、ビアガーデンでやったの覚えてる?」
「えっ……」
「その時にさ、丸山が空を見て『一番星、願いごとしなきゃ』って言ったんだ。ほろ酔いの丸山が可愛いなって思ってたら、首元のこのホクロが見えて。俺にはこれしか見えなかった」

(まさか一番星に願い事をする瞬間を見られていたなんて……!)

 それに聖の首元にはホクロがあるが、修がそんなふうに見ていたとは思いもしなかった。

「あの日もこのホクロにいっぱいキスしたんだよ。何か思い出さない?」

 少しずつキスの感触が麻痺し始めてくる。身体中の感覚が敏感になり始めた時、まるで走馬灯のようにあの日のことが鮮明に蘇ったのだ。
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