色褪せて、着色して。Ⅷ~スノードロップ編~
「俺は、エアー先生とシナモンさんが元気でいてくれれば、もう大丈夫なんすよ」
「…簡単に断ち切れるものなんですかね?」
 一言。
 しまったと思ったのは、
 太陽様が大きな目を更に見開いてこっちを見たからだ。
「…セシルさんは、祖国の好きな人のことを忘れられないって意味ですか?」
 墓穴を掘るというのは、まさにこのこと!
 口をぱくぱくさせてしまったが。
 自分の好きな人は誰だっけ…と考えてしまった。
「すいません。太陽様。私、忘れてました」
「何をっすか?」
「太陽様に言われるまで、祖国で好きだった男のことなんか完全に忘れてました。思い出したら、ムカついてきました」
 ヒューゴのことなんて。
 今更になって思い出すなんて…

「太陽様。私、今の生活が好きなんです。祖国では、自由にピアノを弾くことが許されなくて、そもそも自分の居場所なんてものはないから」
「…そうっすよね。セシルさんお姫様ですもんね。やっぱりどの国でも王族は大変なんですよね」
 うんうんと勝手に納得して太陽様は両腕を組んだ。
 ここまでくると、このピュアな性格の人に対して、嘘をつくことが苦しくなってくる。

 視線をそらして、ぷっと笑うと。
 真顔になって、太陽様を見る。
「太陽様。一つだけ私、断言できます」
「なんでしょう?」
「私は絶対に、太陽様の前から急にいなくなることはありませんから」
 数年前。
 太陽様の初恋相手であろう侍女は自ら命を落とした。
 そして、太陽様が好きになった叔母であるエアー夫人は太陽様に別れを言うこともなく祖国に帰ってしまった。(という設定になるけど)

「約束します。絶対に急にいなくなることはありません」

 じいーと太陽様の顔を見た。
 大きな目に隈があって。
 驚いた表情で私を見ている。
 国家騎士の人達は本当にイケメンばかりだなと。
 今になって気づく。

「セシルさん」
「はい?」
 太陽様はがばっと立ち上がると。
 空を見上げて、身に着けていた剣に触って身構えた。
 薄暗いのでわかりにくいが、誰かいるということだ。

「また、誘拐!?」
「いや…俺の気のせいだったみたいっす」
 太陽様は頭をぽりぽりと掻いた。
「そろそろ、戻りますか。なんかいるみたいですし」
「なんか…って怖いですけど。そうですね。戻りますか」
 誰かに見られているとわかると。
 急にいやあーな気分になった。
 ゆっくりと、立ち上がったのだが。
 気が緩んだのか、「きゃ」と声をもらしてよろけてしまった。
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