あなたは王の器じゃありません 文官令嬢、辺境の地でその才を発揮する
 それは、エルニーナが辺境伯領に来る前から育てられていた種が、ようやく芽を出した瞬間だったのかもしれない。

「……我々の抱くべき王はここにいるわ」

 エルニーナが告げた言葉は、マクシムの耳に届いているだろうか。
 だが、そんなことはどうでもいい。
 今、この瞬間からナヴァリア王国の歴史は大きく書き換えられるのだから。
 マクシムは王笏を取り落とした。金属が石の床を打つ甲高い音が、静まり返った広間に響いた。

「ド、ドラヴェン……お前、まさか……」
「簒奪するつもりはなかった。兄上が、まともに国を治めてくれている限りは」

 ドラヴェンの声は、冷たくはなかった。ただ、疲れたように聞こえた。

「だが、兄上。あなたは自分の名をつけた騎士団すら守れなかった。辺境の民を見殺しにしようとした。自分の過ちを、ひとりの文官に押し付けようとした」
「わ、私は……」
「それでも王を名乗るのか?」

 マクシムの目が揺らいだ。怒りでも恐怖でもなく――それは、諦めに似ていた。

「……あの者を捕らえろ。あとのことは――そうだな、俺に任せろ」

 それは、辺境伯領で幾度となく聞いた言葉だった。
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