綾瞳
「上野公園だけど、後1カ月すれば桜、開花だってさ」
「……そっか」
「……調子、優れないのか?」
「ううん」
首を横に振り、否定する。うまく取り繕えないボロが単に表層化しただけであって、べつに不調なわけではない。
今日は、いつもに比べて、すべてがうまくいかないだけだ。
「だいじょうぶ、だから……」
わたしの発言を完全には信じていないふうに、それを訝しがるまなざしをわたしに注ぐ。そうした眼を向けられると、なんだか、とても居心地が悪いな、と変な笑顔がついうかんでしまう。
――逃げ出したい。
が。
逃げ出そうとしたら手錠を嵌められるかもしれない。冷静な表情の裏に潜む、わたしを逃がさない魂胆がたちまちにして表層化するかもしれない。
前、雅君は言った。その手錠はおもちゃの手錠ではなく、本物の手錠なのだと――。
手錠のブランド名はスミス&ウェッソンというそうだ。
『業務用だからね、これ』
にこり、と癖みたいに口角を上げて、手錠をじゃらじゃらとさせる姿がやけにこわかった。
「……そっか」
「……調子、優れないのか?」
「ううん」
首を横に振り、否定する。うまく取り繕えないボロが単に表層化しただけであって、べつに不調なわけではない。
今日は、いつもに比べて、すべてがうまくいかないだけだ。
「だいじょうぶ、だから……」
わたしの発言を完全には信じていないふうに、それを訝しがるまなざしをわたしに注ぐ。そうした眼を向けられると、なんだか、とても居心地が悪いな、と変な笑顔がついうかんでしまう。
――逃げ出したい。
が。
逃げ出そうとしたら手錠を嵌められるかもしれない。冷静な表情の裏に潜む、わたしを逃がさない魂胆がたちまちにして表層化するかもしれない。
前、雅君は言った。その手錠はおもちゃの手錠ではなく、本物の手錠なのだと――。
手錠のブランド名はスミス&ウェッソンというそうだ。
『業務用だからね、これ』
にこり、と癖みたいに口角を上げて、手錠をじゃらじゃらとさせる姿がやけにこわかった。