綾瞳
“使うよ”とは言わない、決して。
 ――主導権をわたしが握っていると見せかけて、ほんとうは常に雅くんが握っている。こうしたこわい構造がわたしたちのあいだには昔から存在する。
 ――“昔”っていつからだっけ。
 いつからこの家に閉じ込められているのか、もう思い出せない。
『いいよ、今日はね』
『……うん』
『こうしたもの、いつでも綾瞳を縛れる“アイテム”はこの家にあるんだよ、というのを綾瞳にあくまでも理解させるのが今日の目的だったから』
『……』
『はい、は?』
『……はい』
『よし』
 よし、と言い、手錠をテレビの下の引き出しへとしまいに向かった。
 はい、と言わされたとき、自分はお手を要求される犬かなにかなのかと。人間としての尊厳を奪われた気がして胸が痛かった。
 けども、監禁されている時点から人間としての尊厳はないも同然なのかな、と頭が混乱してしまって。
 わたしって、いったいなんなのか。
 ――自分の存在意義を問うたあの日。
 あの日がどの日かをもうおぼえていない。
< 6 / 11 >

この作品をシェア

pagetop