綾瞳
 カチッ、とライターをつける音が聞こえて、過去から現実へと引き戻された。
 癖のあるバニラの香りがふうわりとただよい、雅くんを見る。
 相変わらずテレビを眺めながら、物憂げなふうにキャスター・ホワイトを燻らせていた。
 その視線がテレビに向いているあいだ、雅くんはわたしに興味をうしなったのかな、とおびえてしまう。
 いやだよ、もう。
 部屋が紫煙で満ちる。
 バニラなのに、無機質であまくない。
 キャスターのクリーム色の箱を見るたびに、それは彼にぴったりの煙草だな、とおもう。前に1本、雅くんから勧められて吸ったけれども、へんな味だと思ったきり吸っていない。ただ、『吸いたくなったらいつでも言いな』とは言ってくれている。
 そういうのが雅くんへの依存を高めるのをわかっていながら、わたしをあまやかすのかもしれない。
 テレビに向いた視線をわたしへと誘導するためだけに話しかけるのもなにか違うとおもって、話しかける気になれない。
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