約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 焼き魚に、だし巻き卵、ほうれん草のおひたし、味噌汁、炊き立ての白米――どれも派手さはないけれど和食好きの湊の為に和葉が心を込めて用意した朝食。

 だし巻き卵を箸で掴んで口へ運んだ湊は思わず目を細める。

「……やっぱり、和葉の料理は美味いな」

 その一言に和葉は照れくさそうに笑った。

「そんな……大したものは作ってないよ……」
「手が込んでるとかそういうことじゃない。本当に嬉しいんだ、また和葉の手料理が食べられることが」

 その言葉に和葉の胸がじんわりと温かくなる。

「……湊さん」

 穏やかな空気が二人を包み込み、距離が縮まりそうに思えたその時、寝室から小さな泣き声が聞こえくる。

「ママぁ……っ」

 その声に和葉はすぐに立ち上がると襖を隔てた隣の寝室へ駆け込んだ。

「詩音、どうしたの?」

 身体を起こして泣きじゃくる詩音は、和葉の姿をみつけるとすぐにしがみついた。

「うえーん……」
「どうしたの? 怖い夢見たの?」
「うんっ……」

 背中を優しくさすっていると、様子を見に来た湊が寝室の入口に姿を見せる。

 その瞬間、詩音の表情がぱっと明るくなった。

「おにーちゃん!」

 小さな両手をいっぱいに伸ばす。

「詩音ちゃん」

 傍に寄って湊も手を伸ばすと、和葉から離れた詩音は湊へ抱きついて嬉しそうに頬を緩めた。

「おにーちゃん、かえってなかった!」
「うん。まだいるよ」
「うれしい!」

 涙を溜めてはいるものの笑みを浮かべる詩音を前に自然と微笑み返した湊。

「詩音、お腹すいた?」
「うん!」
「それじゃあ、詩音の好きなおうどんにしようか」
「うん!」

 元気よく頷く詩音を見て和葉は安堵したように微笑む。

「湊さん、作ってる間、詩音を見ててもらってもいい?」
「もちろん」
「ごめんなさい。食事中だったのに」
「構わないよ」

 湊に詩音を任せると、和葉は急いで台所へ戻り、詩音の為にうどんを作り始める。

 その間、寝室からは詩音の弾むような笑い声が聞こえてきた。

 楽しそうに話す声に耳を傾けながら和葉はほっと胸を撫で下ろす。

(元気になってくれて良かった……)

 それからほどなくして温かいうどんが出来上がり、湊の横で食べたいという詩音をリビングへ連れていくと、夢中で麺を頬張っていく。

「おうどん、おいしー!」
「そっか。良かった」

 和葉が優しく笑うと、詩音は隣に居る湊を見上げた。

「おにーちゃんも、ママのごはんおいし?」
「うん。すごく美味しいよ」
「だよね!」

 詩音は誇らしそうに胸を張る。

「しおんね、ママのごはんだいすき!」
「ありがとう、詩音」

 和葉は目を細めると、詩音の頭を優しく撫でた。

 食卓には温かな笑顔と笑い声が溢れ、三人だけの穏やかな時間がゆっくりと流れていたのだけど、食事を終えた湊が名残惜しそうに立ち上がったことで空気は一変する。

「……ご馳走様。俺、そろそろ帰るよ」

 その言葉を聞いた詩音はみるみるうちに表情を曇らせる。

「やだ……」

 小さな手が湊の服をぎゅっと掴んだ。

「おにーちゃん、かえらないで……」

 潤んだ瞳で必死に見上げる詩音のその切ない願いに湊も和葉も言葉を失い、部屋には静かな沈黙が流れていた。
< 27 / 28 >

この作品をシェア

pagetop