約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 夕食の時間になり、和葉は詩音を連れて部屋を出て二階にあるビュッフェ会場へ向かおうとすると、ガチャと隣の部屋の扉も同時に開く。

「……っ」
「……また会ったな」

 出てきたのは湊で、和葉は思わず言葉を失った。

(何この偶然……まさかの隣!?)

 あまりに出来すぎている状況にただ戸惑うばかり。

「夕飯か?」
「え、ええ、そうなの」
「そうか」

 短いやり取りの後、湊は少しだけ視線を伏せて問いかける。

「……旦那は?」

 そんなふいの質問に和葉の表情が曇る。

「その……この子が産まれてすぐに……」

 それ以上は言わなかった。

 離婚なのか死別なのか、あえて曖昧なままにする和葉に

「そう、だったのか……」

 湊は静かに頷いた。

 その表情はどこか安堵したようにも見えたけれど、和葉はそれに気付かないふりをして再び別れた。

 それから夕食を終え、部屋で詩音と寛いでいた頃、コンコンと部屋のドアがノックされた。

「誰だろう?」

 不思議に思いながら和葉が扉を開くと、そこには湊が立っていた。

「あの……何か?」

 湊の突然の訪問に警戒する和葉に、

「これ……」

 と言いながら袋を二つ差し出した。

「……これは?」

 一つの袋の中にはケーキの箱のようなものが入っていて、もう一つの袋には可愛い包装紙に包まれたプレゼントが入っていた。

「誕生日なんだろ?」
「……え?」
「あの子にぶつかりかけた時、胸に付けていただろ?【Happy Birthday】のバッジを。これも何かの縁だからさ、お祝いくらいさせてくれ」
「そんな……悪いわ」
「俺がしたくてしたんだ。気にしないでくれ」

 すると、なかなか戻って来ない和葉の後を追って詩音がやって来た。

「あ、おにーちゃんだ! ママ、なにもってるの?」

 和葉の持つ袋が気になるようで何を持っているのか問いかけると、

「ケーキとプレゼントが入ってる。誕生日おめでとう、詩音ちゃん」

 和葉の代わりに湊が答えながら詩音に、「おめでとう」を伝えると、詩音は大きな瞳を輝かせた。

「しおんの? おにーちゃん、ありがと!」

 プレゼントと聞いた詩音は和葉に開けるようせがみ、悪いと思いつつも包装紙を解いて袋を開けると、詩音は歓声を上げる。

「わぁー! かわいー!」

 中から出てきたのは可愛らしいウサギのぬいぐるみだった。

「うさちゃんだー!」

 和葉から受け取ると、嬉しそうにぎゅっと抱き締める。

「ありがと、おにーちゃん!」

 詩音の無邪気な笑顔に、湊も思わず笑顔になる。

「ああ。気に入ってくれてよかった」

 詩音にとって湊は、ただ親切なお兄さん。

 湊の優しさは昔から変わっていなくて、和葉は思わず惹かれてしまいそうになるけれど――

(駄目よ……私と彼は、住む世界が違うんだし、彼には……)

「和葉」
「え?」
「よかったら連絡先、交換してくれないか」

 真っ直ぐ見つめられ、和葉の心臓がトクンと跳ねる。

 本当なら断るべきで、すぐにでも距離を取るべきだった。

 それなのに、断ることも、頷くことも出来ないでいた。
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