約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
再会
「ママー! はやく、はやく!」

 ホテルのロビーを飛び出した幼稚園児くらいの女の子は、弾むような足取りでバス乗り場へ向かう。

詩音(しおん)、そんなに急がなくてもメルヘンワールドは逃げないから大丈夫だよ」

 和葉は苦笑しながら小さな背中を追いかけた。

 三連休初日、今日は和葉の一人娘の詩音の五歳の誕生日を祝う為の特別な旅行だった。

「ママ、しおんね、コースターのりたい!」
「コースターかぁ。乗れるといいねぇ」
「うん! あとねぇ、おうまさんものる!」
「いいね。詩音が乗りたいもの、沢山乗ろうね」
「やったー!」

 到着したバスへ乗り込み、二人はテーマパークへ向かう。

 窓の外を流れる景色を眺めながら、詩音は終始楽しそうに笑っていて、その笑顔を見るだけで和葉の胸も温かくなる。

 この子がいてくれるから、今の自分は前を向いて生きていけるのだと改めて思っていた。

 夕方まで目一杯遊び尽くし、ホテルへ戻ってきた頃には空が茜色に染まり始めていたけれど詩音の体力はまだまだ尽きないらしい。

「ママー! はやくはやく!」
「こら、走っちゃ──」

 和葉が制止するも詩音は廊下を駆け出して行き、曲がり角を曲がった瞬間――

「わっ!」

 誰かにぶつかり、小さな体が後ろへ倒れそうになるけれどその寸前、

「危ない!」

 低い男の声とともに大きな手が詩音の身体を支えた。

 和葉は慌てて駆け寄り、

「すみません! 大丈夫ですか――」

 謝罪の言葉を口にしながら相手に視線を向けると、詩音を抱き留めていた男を見た瞬間、思わず息を呑む。

「……え」
「……和葉か?」

 目の前に居るのは、かつて心から愛して将来を誓い合った湊だったのだから。

 突然の再会に二人は言葉を失い動けずにいると、

「ママ?」

 不思議そうな詩音の声で二人は我に返る。

 そして湊の視線が詩音へ向けられた。

「……その子、もしかして……和葉の子供、なのか?」
「……え、ええ。そうなの」

 答えた瞬間、湊の表情が固まった。

 何を思ったのかは分からないけれど、和葉の瞳に映った湊の悲痛な表情に胸が痛み、重たい沈黙が流れる中、

「ママー! はやくいこー!」

 詩音が和葉の手を引いた。

「……それじゃ」
「ああ……」

 短い挨拶を交わした和葉は詩音の手を握ると、早々にその場を後にした。

(まさか、こんなところで再会するなんて……)

 和葉の心臓はうるさく音を立てる。

 けれど、きっと今度こそ二度と会うこともないだろう。

 そう自分に言い聞かせて気持ちを切り替え、泊まっている部屋へ戻って行った。
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