約束の続きをもう一度~再会した御曹司の彼は、娘ごと私を甘やかして離しません~
 思わず動きを止めた湊は振り返る。

「和葉?」

 名前を呼ばれた和葉は自分でも咄嗟に引き止めてしまったことに気づいたのか、困ったように視線を揺らした。

「あ、えっと、私……」

 何かを伝えたいはずなのに言葉が続かない。

 その様子を見た湊は穏やかに微笑むと、詩音を起こさないよう声を潜めた。

「和葉、ちょっと二人で話そう」
「……う、うん、そうだね」

 湊の言葉に小さく頷いた和葉は静かに寝室を後にした。

 寝室を出た湊はティーセットが閉まってある棚を開けると手際良く準備をして紅茶を淹れる。

 そして湯気の立つカップを二つ手にすると、その一つをソファーに座っていた和葉へ差し出し、自身も隣に腰を下ろした。

「ありがとう……」

 カップを受け取った和葉は両手で包み込むように持つ。

 温かな紅茶の香りが張り詰めていた空気を少しだけ和らげた。

 二人が同時にカップをテーブルに置いたタイミングで、湊は和葉の横顔を見つめながら優しく問いかけた。

「それで、どうした?」
「……あ、えっと…………」

 問いかけられた途端和葉は再び口ごもってしまう。

 何か特別な出来事があったわけではない。

 ただ、あのまま、「おやすみ」と見送ってしまったら、きっと後悔する――そんな気がしただけだった。

 けれど、その理由を上手く言葉にすることが出来ずに沈黙が流れる中、湊は小さく息を吐くと、

「……それはそうと、ごめんな。急に泊まることを決めて」

 突然の宿泊を決めたことを改めて詫びたのだ。

 その言葉に和葉は首を横へ振った。

「そんな、謝らないで……現に今も雨はすごいし……こんな中で車を走らせるのは危険だから言ってくれたんでしょう?」

 窓の外では、激しい雨音が絶え間なく響いている。

「あれは私たちを気遣ってくれたからだって分かってる。だからむしろ、気を遣わせちゃってごめんなさい。それと……ありがとう」

 和葉の素直な感謝の言葉に湊は少しだけ目を細め、どこか照れくさそうに微笑んだ。

「和葉……」

 その時だった。

 これまでも少し離れたところで雷は鳴っていたのだけど、急に音が大きくなったと思った刹那、

 ゴロゴロゴロッ!!

 という耳をつんざくような轟音がホテル全体を震わせた。

「きゃっ……!」

 それと同時に照明がふっと消え、部屋は一瞬で暗闇に包まれる。

 何も見えなくなった恐怖に和葉の身体がびくりと震え、湊が声を掛けるよりも早く和葉は反射的に隣に居る湊へ抱き着いた。

「……っ!」

 強く胸元へしがみつき、震える指先が湊のシャツをぎゅっと掴むと、パッと照明が復旧して部屋に明かりが戻った。

 視界が開けた和葉は自分がどんな格好をしているのかを理解する。

 湊の胸にぴったりと身体を預け、両腕でしっかりと抱き着いているのだ。

「……あっ」

 みるみるうちに頬が真っ赤に染まっていき小さな声で謝った。

「ご、ごめんなさい……! びっくりして、その……」

 そして、急いで離れようとした和葉の身体は、

「え……?」

 湊の逞しい腕によってしっかり抱き締められて身動きが取れなくなっていた。
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