レッドパンダ・ブレイク ※本格・長編ファンタジー戦記、一括掲載
「そうなのよ、それでね……」
アネシュカ・ペルンシュテインは金糸混じりの赤い髪を春風にそよがせて、さも楽しげに話す。どことなく活動的で、男勝りな元気よさで白い歯を光らせている。血色がよく、長年のほどよい日焼けのなごりがある。
「ふうん」
含み笑いしながらきいているのはブランシュ・ノスティッツだ。ブロンドの髪は腰にまで流れ、ボーイイッシュなアネシュカとは対照的な、しおらしい雰囲気の美少女だった。
ふたりは水兵風のセーラー襟付きローブで肩をならべ、道々で談笑するのが常だ。
「やだ、またあたしばっかりしゃべっちゃってた?」
アネシュカは目をパチクリさせて我が身を省みる。
ブランシュが金髪をさらりとさせて首をふる。頬は透きとおるような白さで、生命感より透明感がきわだっていた。くつろいだ表情だけが心の温度を表現している。
「そんなこと、ないよ」
「ごめん」
「アネシュカの話、おもしろいし」
にっこりとするブランシュ。アネシュカは腕組みして「うーん」とうなった。
「?」
不可解げに顔をのぞきこむブランシュにアネシュカは白い歯を見せる。そんなとき、どこかしら小型肉食獣めいているのはご愛嬌だ。ちょっとばかり不敵でさえあったが。
「ブランシュって、優しい顔、ちゃんとできるんじゃん」
「優しい顔?」
「だってさ、ふだんの学校にいるときとか、ずっとすましてるし」
「そう?」
「そだよ」
アネシュカは言葉遣いやら立ち居振舞いからして下町育ちがまるわかりである。顔立ちの造形はさしてわるくもなかったが、どことはなくラフな印象がある。それでいて悪気はないのだった。それと正反対に、ブランシュの方はお嬢様育ちが挙動の端々に見え隠れしている。こちらは魔法使いとして由緒ある家門の出であった。
「アネシュカは、特別だもの」
ほんの少しばかり声を低めて、うちあけるみたいにささやく。
アネシュカはびっくりしたようにたずねた。
「……なんで? よく話すし、仲は良いかもしれないけど」
いくら仲がよくとも『特別』とまで言われるようなことは何もしていない。
ブランシュは気恥ずかしげに、小声になる。
「『きれいだ』って言ってくれたから」
「だって、そうでしょ」
アネシュカは性格柄、褒めるにもけなすにも裏表がなくストレートだった。
「十人いたら、九人くらいはそう思うんじゃない? 美人だし」
ブランシュは、かすかに首をふった。
「顔とか、スタイルじゃなくて……」
実のところ、この少女にとって自分が美しいことは自明であるらしい。あえて他人に承認されるまでもない。ただ一点を除いては。
ブランシュはためらってから言った。
「背中のこと」
「背中? あー、金呪の刺青のこと?」
相部屋ゆえに、偶然見てしまった。
ブランシュの背中には金呪としての刺青があるのだ。サイズとして小さいとはいえない。白い背中にひときわ目立ち、ごまかしようのない代物だった。
「あのとき、『きれいだよ』って言ってくれたでしょ?」
ブランシュは真剣な目で念を押すみたいに言った。
アネシュカはあっさりとうなずく。
「だって、スペシャルの証拠みたいなもんだし。それに、ブランシュだったらどんな飾りでも似合うと思う。あんなの、アクセサリや眼鏡と大差ないし。……そりゃ、せっかく肌きれいなのに、ちょっともったいない気もするけど。でも、そんなことでブランシュがきれいじゃなくなるなんて、ない」
通常、金呪はもっと大きくなってから与えられる。ブランシュはそれを先取りするほどの資質を持った、一種の天才だったらしい。
ブランシュはアネシュカの目をまっすぐに射ている。
こうして見つめ合っていると、まるで過去と未来を映す水晶玉でも見ているような、摩訶不思議な感覚にとらわれる。深いではなく、うっとりと吸い込まれそうになる。それが魔法の力のあらわれなのか、それとも単純にブランシュの魅力のせいなのかアネシュカにはわからない。
「本気でそんなふうに言ってくれる人なんて、めったといないもの」
ブランシュは陰のある微笑を浮かべ、足を止める。両手でアネシュカの頭を捕らえた。
「もう一回、好きって言って」
額と額が触れる。ブランシュは思考の電流パルスを読めるのだ。こうすれば言っていることが本当か嘘かはわかるらしい。
アネシュカはどぎまぎしながら、同じ言葉を口にする。
「きれいだし、好き」
「ありがとう」
ブランシュは手を離し、照れくさそうに晴れやかな表情になる。いきなりアネシュカと腕を組む。まるで恋人にでもふざけるような仕草だ。
「アネシュカが、男の子だったらよかったのに!」
仲睦まじい少女たちは、夕刻の魔法学校の授業へと歩調をそろえる。
アネシュカ・ペルンシュテインは金糸混じりの赤い髪を春風にそよがせて、さも楽しげに話す。どことなく活動的で、男勝りな元気よさで白い歯を光らせている。血色がよく、長年のほどよい日焼けのなごりがある。
「ふうん」
含み笑いしながらきいているのはブランシュ・ノスティッツだ。ブロンドの髪は腰にまで流れ、ボーイイッシュなアネシュカとは対照的な、しおらしい雰囲気の美少女だった。
ふたりは水兵風のセーラー襟付きローブで肩をならべ、道々で談笑するのが常だ。
「やだ、またあたしばっかりしゃべっちゃってた?」
アネシュカは目をパチクリさせて我が身を省みる。
ブランシュが金髪をさらりとさせて首をふる。頬は透きとおるような白さで、生命感より透明感がきわだっていた。くつろいだ表情だけが心の温度を表現している。
「そんなこと、ないよ」
「ごめん」
「アネシュカの話、おもしろいし」
にっこりとするブランシュ。アネシュカは腕組みして「うーん」とうなった。
「?」
不可解げに顔をのぞきこむブランシュにアネシュカは白い歯を見せる。そんなとき、どこかしら小型肉食獣めいているのはご愛嬌だ。ちょっとばかり不敵でさえあったが。
「ブランシュって、優しい顔、ちゃんとできるんじゃん」
「優しい顔?」
「だってさ、ふだんの学校にいるときとか、ずっとすましてるし」
「そう?」
「そだよ」
アネシュカは言葉遣いやら立ち居振舞いからして下町育ちがまるわかりである。顔立ちの造形はさしてわるくもなかったが、どことはなくラフな印象がある。それでいて悪気はないのだった。それと正反対に、ブランシュの方はお嬢様育ちが挙動の端々に見え隠れしている。こちらは魔法使いとして由緒ある家門の出であった。
「アネシュカは、特別だもの」
ほんの少しばかり声を低めて、うちあけるみたいにささやく。
アネシュカはびっくりしたようにたずねた。
「……なんで? よく話すし、仲は良いかもしれないけど」
いくら仲がよくとも『特別』とまで言われるようなことは何もしていない。
ブランシュは気恥ずかしげに、小声になる。
「『きれいだ』って言ってくれたから」
「だって、そうでしょ」
アネシュカは性格柄、褒めるにもけなすにも裏表がなくストレートだった。
「十人いたら、九人くらいはそう思うんじゃない? 美人だし」
ブランシュは、かすかに首をふった。
「顔とか、スタイルじゃなくて……」
実のところ、この少女にとって自分が美しいことは自明であるらしい。あえて他人に承認されるまでもない。ただ一点を除いては。
ブランシュはためらってから言った。
「背中のこと」
「背中? あー、金呪の刺青のこと?」
相部屋ゆえに、偶然見てしまった。
ブランシュの背中には金呪としての刺青があるのだ。サイズとして小さいとはいえない。白い背中にひときわ目立ち、ごまかしようのない代物だった。
「あのとき、『きれいだよ』って言ってくれたでしょ?」
ブランシュは真剣な目で念を押すみたいに言った。
アネシュカはあっさりとうなずく。
「だって、スペシャルの証拠みたいなもんだし。それに、ブランシュだったらどんな飾りでも似合うと思う。あんなの、アクセサリや眼鏡と大差ないし。……そりゃ、せっかく肌きれいなのに、ちょっともったいない気もするけど。でも、そんなことでブランシュがきれいじゃなくなるなんて、ない」
通常、金呪はもっと大きくなってから与えられる。ブランシュはそれを先取りするほどの資質を持った、一種の天才だったらしい。
ブランシュはアネシュカの目をまっすぐに射ている。
こうして見つめ合っていると、まるで過去と未来を映す水晶玉でも見ているような、摩訶不思議な感覚にとらわれる。深いではなく、うっとりと吸い込まれそうになる。それが魔法の力のあらわれなのか、それとも単純にブランシュの魅力のせいなのかアネシュカにはわからない。
「本気でそんなふうに言ってくれる人なんて、めったといないもの」
ブランシュは陰のある微笑を浮かべ、足を止める。両手でアネシュカの頭を捕らえた。
「もう一回、好きって言って」
額と額が触れる。ブランシュは思考の電流パルスを読めるのだ。こうすれば言っていることが本当か嘘かはわかるらしい。
アネシュカはどぎまぎしながら、同じ言葉を口にする。
「きれいだし、好き」
「ありがとう」
ブランシュは手を離し、照れくさそうに晴れやかな表情になる。いきなりアネシュカと腕を組む。まるで恋人にでもふざけるような仕草だ。
「アネシュカが、男の子だったらよかったのに!」
仲睦まじい少女たちは、夕刻の魔法学校の授業へと歩調をそろえる。