レッドパンダ・ブレイク ※本格・長編ファンタジー戦記、一括掲載
6
アルジャノンは図書館の最上階、五階に上がって司書キアラの部屋をノックした。
「どうぞ」
ドアを押し開けると、書斎には姿が見えない。
「こっちです」
どうやら続きの私室にいるようだった。
アルジャノンは書斎の仕切り壁のドアを叩く。壁の向こうでかすかに笑った気配がした。
「どうぞ。お入りになって」
磨き上げた真鍮のノブを白い手袋で回す。
「頼みたいことがある」
「ご随意に」
キアラは暖炉前で、いつものように車椅子に座っていた。彼女は人だったが、空精(アエテル)の父親を持つハーフだった。あでやかな銀色の髪はさざ波立てる風のようだった。淡い色合いのゆったりした薄絹のドレス。頼りなげなカーディガンを痩せた肩にかけている。ネグリジェの一歩手前くらいの部屋着姿だった。日中に着る上着とズボンはベッドの上に投げられている。
暖炉の片隅には描きかけの板絵がカンバスにのってたたずんでいる。溶かした蝋で顔料を塗りつける、古風なエンコースティックの技法がキアラの気に入りらしい。絵の具を溶かして調合するための、柄付き金属容器の中に白く固まった蝋が見える。色つき蝋が石畳に点々とこぼれている。さながら魔女の厨の観があった。
「何でもおっしゃってください」
か細くもなめらかな声音でキアラはうながす。
控えめの火明かりに照らしだされた目は遠くしょぼしょぼしている。うつらうつら仮眠をとっていたらしい。あるいは放心状態から完全に戻ってきていないだけなのかもしれなかった。
シルバーブロンドが老齢を連想させるせいだろうか、三十前のキアラは美しいながらも、薄幸にやつれた印象がある。
「キアラ。ブレイクから連絡は?」
「まだありません」
アルジャノンはサングラスに眉根をひそめる。
「おかしいな。普段なら、一報入れてくるんだが」
「そうですね」
キアラは奥ゆかしくも、やや投げやり気味に答えた。
セミナリオだけでなくマドラサ(律法学校)でも学び、優秀な成績を修めた才媛である。けっして頭が悪いわけではないのだが、変に気抜けしてぼんやりしてみえる。寝起きの子猫のような眼差しにはまるで、永遠の魔法のもやがかかっているようだった。
「まあいい。明日の朝にでも連絡してくるだろう」
アルジャノンはのんびりと構えている。
「姪御さん、お元気ですか」
「まあ何とか」
「甥御さんは亡命なさったんですね。妹さんも一緒に連れて行けばよかったのに」
「……まったく、どうして……。いや、まて。それではカレルの肩を持っているように聞こえるが」
アルジャノンはキアラの態度に違和感を覚える。
「いいえ、非難しているんです。薄情だなって」
キアラの面持ちには力なく、暗い笑みが漂っている。
「でもちょっとだけ羨ましいんです。カレル君のことが」
「何を馬鹿な」
「受けた仕打ちからしたら、彼が復讐に走っても責められませんもの」
真顔で言ってのけたキアラに、アルジャノンはほとほと困り果ててため息する。
「同情はするさ。だが、だからといって、それではほとんど自殺行為だ」
彼はしばし思案していたが、キアラに袖を引っ張られて我に帰る。
「それで、わたしは何をしたら? お夜食でもご一緒しましょうか?」
からかうような口調にアルジャノンはちょいと肩をすくめる。
「ぜひ。……でもその前に、プレート3に連絡をとれないかな? 復旧作業のための、新しい増援のことで、少しばかり話があるんだ。ブレイクのやつも、休ませてやらんと」
「かしこまりました」
恭しくも、子供をあやすような優しさのある物腰である。
キアラはアルジャノンの監視を兼ねている。彼女はテクネーにも熟練しており、モールス信号の完璧な暗号化までやってのける。それゆえにアルジャノンの外部との通信を一手に引き受けていたのだ。
つまりアルジャノンにとって通信の自由はなく、その権利は彼女にボトルネックを押さえられていた。手紙一通出すのでさえ、頼まねばならない窮屈な立場。この助手兼目付け役が好意的な相手でなければ、とてもやっていられなかっただろう。
7
セリムとブレイクは終点駅の町にある、警備軍の建物にいた。
その物々しさは肌で感じられる。二人は事前に通信し、駆け込んですぐ詳しい事情を話した。話が終わる前に彼らは快く一連の手配をしてくれていた。夜が明け次第に山狩りが始まるのだろう。
「ちょいと焦りすぎた。感情的になりすぎたか……でも町に入られてから暴れられたら、大被害になりかねないし……物騒な破壊兵器を持ってるかもしれないとかって……」
銃火でカレルを追い立てたのは町ではなく森の方角だった。
「一応事前にもここに連絡はしたんだが、流石に包囲網張るまでには時間が足りなかっただろうし……」
ブレイクはV字眉を縮めて腕組みする。反省しているらしかった。
セリムは深刻そうなブレイクの様子を見守っている。
先の成り行きはよくわからないが、ひとまずは応接室に落ち着くことができた。
「カレルさんとは知り合いなの?」
「あいつ、共和国から亡命する前に、プレート1で知り合いだったんだ」
ブレイクの言葉に、セリムは青くなった。いや、うっすら木目のある頬が白樺のように白くなった。並々ならぬ因縁を感じ取ったからだ。
「それで、あの人は……」
「帝国の貴族になったらしい。そんな噂があった。半信半疑だったけど……」
それでは自分はそれと知らず、半日も帝国の破壊工作員と同席していたことになる。しかも破壊兵器を携えていた可能性まであるというのだ。
こんなに敵領土の奥深くまで平然と侵入してきたカレル・ノスティッツ。貴公子のようでいて、実に凄まじい男である。ブレイクと同等のアルスの使い手だというのもまんざら嘘ではあるまい。
セリムがふと思いついた疑問を口にする。
「……ブレイク。カレルは本当に、帝国のスパイなのかな?」
「なぜ?」
「ブレイクは、どうしてノスティッツさんがスパイだってわかったのさ。半日一緒にいたけど、嘘ついてるみたいにはちょっと見えなかったよ? だいたい、名前の綴りを換えたくらいで、ほとんど本名で侵入してくるなんて。無用心っていうか、こっちをよっぽど甘くみてるって言うか」
セリムの疑問ももっともだった。
「ふーむ。あいつ、頭いいし。頭のいいヤツの考えることはわからねーよ。役者の才能もあるからなー」
ブレイクはまた腕組みする。短い黒い足を上下させて。
「まともに反撃してこなかったのは、変ちゃあ変だが……戦うメリットがないと思って逃げただけかもしれないし」
「誰が、カレルさんをスパイだと?」
ブレイクは声を潜めた。小動物の姿かたちとて、別に馬鹿なわけでもない。どうやら背景に複雑な事情があるらしかった。
「それが、プレート2の統領から、じきじきの秘密命令だよ」
「統領が?」
セリムはにわかに会話に出た人物にびっくりする。
「カレルはアルジャノンの血縁者だからな。せめて『迎撃に協力した』ってアリバイでもつくっておいてやらないと、アルジャノンの総長として立場が悪くなるからって。キアラを通じて、命令書を渡してきたんだ」
ブレイクはセリムに統領、マフムート・パシャの印のある命令書を見せた。
「しかも相手は凶悪犯だぜ。いったん港で役人に止められたんだけど、『非常事態だ』って押し切って、無理やりハロルド号で奥まで乗り入れてきたんだ。焦ったぜ」
「どうしてあの場所を?」
「カレルがエンヴェルに会いたがってるって知ってたから、まさかこっちでお前とはち合わせしたんじゃないかって。そしたら案の定、お前と並んで歩いてたからよー。人質にとられるんじゃないかって、気が気じゃなかったぜ」
エンヴェル、自分の旧友までが巻き込まれていると知ってセリムは顔を曇らせる。
「……とにかく、僕はエンヴェル・クライストに会いに行くよ」
セリムはパイプ椅子から立ち上がった。強固な意志に紅葉の瞳が冷たく光る。
「そうだな。でも、先に連絡して……こっちに来てもらったらどうだ」
「来てくれるかな?」
「そりゃ、そうか。だよな」
ブレイクは納得したように、手で支えた顎を動かした。
警備軍から呼び出せば、出頭命令と変わらない。現政権に批判的な独立派のエンヴェルが、素直に顔を出すとは考えにくいかもしれない。カレルを追い立てたことを察知すれば、エンヴェルも警戒するだろう……幾週も前から見張りはつけてあるそうだったが……。
ここの警察の関係者から聞いた話では、幸い、現時点ではエンヴェルにそれほど怪しい動きは監察されていないらしい。
「このままじゃ、エンヴェルにまで疑いがかかるかもしれない。濡れ衣がかかったら、かわいそうだし」
カレルは会談の席に、何も知らないセリムを同伴しようとした。だとすればエンヴェルもまた正体を知らず、カレルをただのジャーナリストだと思って請合ったのかもしれない。その可能性は高かったし、セリムはそう思いたかった。
仮にカレルの真意がエンヴェルを帝国側に協力させることだったとしても、当のエンヴェルの方にその気があったとは思えない。もしも最初から密談の予定があれば、わざわざセリムのような部外者を連れて行くような真似はしないだろう。カレルもまた様子見を望んでいたようにも考えられる。
可及的な迅速さで確かめなくてはならない。
「うん。その方がいい。すぐにでも、お前が連絡をとってみたらいい。お前だったら、事務所か自宅と直に話くらいはできるだろうし」
ブレイクも賛成のようだった。
「それに、本人はそんな気がなくても、カレルが来たことでおかしな料簡を起こすかもしれないし。そんなことになっちゃ、厄介だもんな」
あまり考えたくない可能性だった。
けれども事態はどんどん大げさな方向に流れていってしまっている。
アルジャノンは図書館の最上階、五階に上がって司書キアラの部屋をノックした。
「どうぞ」
ドアを押し開けると、書斎には姿が見えない。
「こっちです」
どうやら続きの私室にいるようだった。
アルジャノンは書斎の仕切り壁のドアを叩く。壁の向こうでかすかに笑った気配がした。
「どうぞ。お入りになって」
磨き上げた真鍮のノブを白い手袋で回す。
「頼みたいことがある」
「ご随意に」
キアラは暖炉前で、いつものように車椅子に座っていた。彼女は人だったが、空精(アエテル)の父親を持つハーフだった。あでやかな銀色の髪はさざ波立てる風のようだった。淡い色合いのゆったりした薄絹のドレス。頼りなげなカーディガンを痩せた肩にかけている。ネグリジェの一歩手前くらいの部屋着姿だった。日中に着る上着とズボンはベッドの上に投げられている。
暖炉の片隅には描きかけの板絵がカンバスにのってたたずんでいる。溶かした蝋で顔料を塗りつける、古風なエンコースティックの技法がキアラの気に入りらしい。絵の具を溶かして調合するための、柄付き金属容器の中に白く固まった蝋が見える。色つき蝋が石畳に点々とこぼれている。さながら魔女の厨の観があった。
「何でもおっしゃってください」
か細くもなめらかな声音でキアラはうながす。
控えめの火明かりに照らしだされた目は遠くしょぼしょぼしている。うつらうつら仮眠をとっていたらしい。あるいは放心状態から完全に戻ってきていないだけなのかもしれなかった。
シルバーブロンドが老齢を連想させるせいだろうか、三十前のキアラは美しいながらも、薄幸にやつれた印象がある。
「キアラ。ブレイクから連絡は?」
「まだありません」
アルジャノンはサングラスに眉根をひそめる。
「おかしいな。普段なら、一報入れてくるんだが」
「そうですね」
キアラは奥ゆかしくも、やや投げやり気味に答えた。
セミナリオだけでなくマドラサ(律法学校)でも学び、優秀な成績を修めた才媛である。けっして頭が悪いわけではないのだが、変に気抜けしてぼんやりしてみえる。寝起きの子猫のような眼差しにはまるで、永遠の魔法のもやがかかっているようだった。
「まあいい。明日の朝にでも連絡してくるだろう」
アルジャノンはのんびりと構えている。
「姪御さん、お元気ですか」
「まあ何とか」
「甥御さんは亡命なさったんですね。妹さんも一緒に連れて行けばよかったのに」
「……まったく、どうして……。いや、まて。それではカレルの肩を持っているように聞こえるが」
アルジャノンはキアラの態度に違和感を覚える。
「いいえ、非難しているんです。薄情だなって」
キアラの面持ちには力なく、暗い笑みが漂っている。
「でもちょっとだけ羨ましいんです。カレル君のことが」
「何を馬鹿な」
「受けた仕打ちからしたら、彼が復讐に走っても責められませんもの」
真顔で言ってのけたキアラに、アルジャノンはほとほと困り果ててため息する。
「同情はするさ。だが、だからといって、それではほとんど自殺行為だ」
彼はしばし思案していたが、キアラに袖を引っ張られて我に帰る。
「それで、わたしは何をしたら? お夜食でもご一緒しましょうか?」
からかうような口調にアルジャノンはちょいと肩をすくめる。
「ぜひ。……でもその前に、プレート3に連絡をとれないかな? 復旧作業のための、新しい増援のことで、少しばかり話があるんだ。ブレイクのやつも、休ませてやらんと」
「かしこまりました」
恭しくも、子供をあやすような優しさのある物腰である。
キアラはアルジャノンの監視を兼ねている。彼女はテクネーにも熟練しており、モールス信号の完璧な暗号化までやってのける。それゆえにアルジャノンの外部との通信を一手に引き受けていたのだ。
つまりアルジャノンにとって通信の自由はなく、その権利は彼女にボトルネックを押さえられていた。手紙一通出すのでさえ、頼まねばならない窮屈な立場。この助手兼目付け役が好意的な相手でなければ、とてもやっていられなかっただろう。
7
セリムとブレイクは終点駅の町にある、警備軍の建物にいた。
その物々しさは肌で感じられる。二人は事前に通信し、駆け込んですぐ詳しい事情を話した。話が終わる前に彼らは快く一連の手配をしてくれていた。夜が明け次第に山狩りが始まるのだろう。
「ちょいと焦りすぎた。感情的になりすぎたか……でも町に入られてから暴れられたら、大被害になりかねないし……物騒な破壊兵器を持ってるかもしれないとかって……」
銃火でカレルを追い立てたのは町ではなく森の方角だった。
「一応事前にもここに連絡はしたんだが、流石に包囲網張るまでには時間が足りなかっただろうし……」
ブレイクはV字眉を縮めて腕組みする。反省しているらしかった。
セリムは深刻そうなブレイクの様子を見守っている。
先の成り行きはよくわからないが、ひとまずは応接室に落ち着くことができた。
「カレルさんとは知り合いなの?」
「あいつ、共和国から亡命する前に、プレート1で知り合いだったんだ」
ブレイクの言葉に、セリムは青くなった。いや、うっすら木目のある頬が白樺のように白くなった。並々ならぬ因縁を感じ取ったからだ。
「それで、あの人は……」
「帝国の貴族になったらしい。そんな噂があった。半信半疑だったけど……」
それでは自分はそれと知らず、半日も帝国の破壊工作員と同席していたことになる。しかも破壊兵器を携えていた可能性まであるというのだ。
こんなに敵領土の奥深くまで平然と侵入してきたカレル・ノスティッツ。貴公子のようでいて、実に凄まじい男である。ブレイクと同等のアルスの使い手だというのもまんざら嘘ではあるまい。
セリムがふと思いついた疑問を口にする。
「……ブレイク。カレルは本当に、帝国のスパイなのかな?」
「なぜ?」
「ブレイクは、どうしてノスティッツさんがスパイだってわかったのさ。半日一緒にいたけど、嘘ついてるみたいにはちょっと見えなかったよ? だいたい、名前の綴りを換えたくらいで、ほとんど本名で侵入してくるなんて。無用心っていうか、こっちをよっぽど甘くみてるって言うか」
セリムの疑問ももっともだった。
「ふーむ。あいつ、頭いいし。頭のいいヤツの考えることはわからねーよ。役者の才能もあるからなー」
ブレイクはまた腕組みする。短い黒い足を上下させて。
「まともに反撃してこなかったのは、変ちゃあ変だが……戦うメリットがないと思って逃げただけかもしれないし」
「誰が、カレルさんをスパイだと?」
ブレイクは声を潜めた。小動物の姿かたちとて、別に馬鹿なわけでもない。どうやら背景に複雑な事情があるらしかった。
「それが、プレート2の統領から、じきじきの秘密命令だよ」
「統領が?」
セリムはにわかに会話に出た人物にびっくりする。
「カレルはアルジャノンの血縁者だからな。せめて『迎撃に協力した』ってアリバイでもつくっておいてやらないと、アルジャノンの総長として立場が悪くなるからって。キアラを通じて、命令書を渡してきたんだ」
ブレイクはセリムに統領、マフムート・パシャの印のある命令書を見せた。
「しかも相手は凶悪犯だぜ。いったん港で役人に止められたんだけど、『非常事態だ』って押し切って、無理やりハロルド号で奥まで乗り入れてきたんだ。焦ったぜ」
「どうしてあの場所を?」
「カレルがエンヴェルに会いたがってるって知ってたから、まさかこっちでお前とはち合わせしたんじゃないかって。そしたら案の定、お前と並んで歩いてたからよー。人質にとられるんじゃないかって、気が気じゃなかったぜ」
エンヴェル、自分の旧友までが巻き込まれていると知ってセリムは顔を曇らせる。
「……とにかく、僕はエンヴェル・クライストに会いに行くよ」
セリムはパイプ椅子から立ち上がった。強固な意志に紅葉の瞳が冷たく光る。
「そうだな。でも、先に連絡して……こっちに来てもらったらどうだ」
「来てくれるかな?」
「そりゃ、そうか。だよな」
ブレイクは納得したように、手で支えた顎を動かした。
警備軍から呼び出せば、出頭命令と変わらない。現政権に批判的な独立派のエンヴェルが、素直に顔を出すとは考えにくいかもしれない。カレルを追い立てたことを察知すれば、エンヴェルも警戒するだろう……幾週も前から見張りはつけてあるそうだったが……。
ここの警察の関係者から聞いた話では、幸い、現時点ではエンヴェルにそれほど怪しい動きは監察されていないらしい。
「このままじゃ、エンヴェルにまで疑いがかかるかもしれない。濡れ衣がかかったら、かわいそうだし」
カレルは会談の席に、何も知らないセリムを同伴しようとした。だとすればエンヴェルもまた正体を知らず、カレルをただのジャーナリストだと思って請合ったのかもしれない。その可能性は高かったし、セリムはそう思いたかった。
仮にカレルの真意がエンヴェルを帝国側に協力させることだったとしても、当のエンヴェルの方にその気があったとは思えない。もしも最初から密談の予定があれば、わざわざセリムのような部外者を連れて行くような真似はしないだろう。カレルもまた様子見を望んでいたようにも考えられる。
可及的な迅速さで確かめなくてはならない。
「うん。その方がいい。すぐにでも、お前が連絡をとってみたらいい。お前だったら、事務所か自宅と直に話くらいはできるだろうし」
ブレイクも賛成のようだった。
「それに、本人はそんな気がなくても、カレルが来たことでおかしな料簡を起こすかもしれないし。そんなことになっちゃ、厄介だもんな」
あまり考えたくない可能性だった。
けれども事態はどんどん大げさな方向に流れていってしまっている。