黒猫と星は凪いでいる
【メアリー】


「ここにもう時期馬車が来るから。扉が空いたらお辞儀をして、私かお客様が良いというまで顔を上げないようにね」

「はい」

「…それと、その服あげるわ。シェナにとても似合っているもの」

「…はい」

シェナはいつものように無機質な返事だった。


 シェナは5年前、うちの孤児院に来た子だ。当時から人と全く話さず関わらずといった子だった。他の子よりどこか大人びているところもある。

それに、どんなことでも飲み込みが早かった。何をやらせても軽々とやってのけるのだ。

 あれはまだシェナがこの孤児院に入りたての頃のこと。この孤児院は基本的に自由を大切にしているが、勉強だけは普通の子供より先取りしたことを教えている。

もちろん入りたてのシェナも例外ではなく、一緒に勉強させた。

本来途中から入った子は勉強についていくのがとても大変だ。だというのに、この子はたった一週間でこの環境に適応し、さらに年上の子供達に混じってどんどん難しい問題を解いていった。

シェナは一度問題を解かせると全て記憶して一度間違えても次からは絶対に間違えないのだ。

 今もその実力を十二分に発揮してさらに魔法の力まで発現させ、青の魔法使いにその才能を認められた。まさに神童のような子だ。


 ただ、そんなシェナに一つだけ気になるところがある。

感情が乏しすぎるのだ。

また、歳の割に無口に近いくらい口数が少なく、大人びているように見えるが世間知らずすぎるところもある。人と話すことも苦手に見えた。できるだけ話しかけて触れ合うようにしてきたが、人に対する警戒心が強過ぎて全く心を開いてくれなかった。

だから、その欠点を賢さで補えるように私はたくさんの知識をシェナに与えることにした。この孤児院にあるすべての知識を教え尽くした。

今では努力の甲斐もあって興味のあることについて聞いてきたり自分の意見を言ったりとだいぶ口数が増えた。シェナのことについてもだいぶ理解できたつもりだ。

 私がシェナに与えられたものはここまでで、もうこの孤児院から見送ることになってしまったが、それでもいつかシェナに私が教えられなかったことを教えられる人が現れるだろう。そう願って。

 馬車が到着した。きっと明日にはシェナはこの孤児院を発つ。この青の魔術師様がどんな方であれ、きっとシェナが大きく成長できるきっかけになるだろう。

シェナのこの先のことも思いつつ、私は深くお辞儀をした。

「ようこそいらっしゃいました。青の魔術師、テオブ様」
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