結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 冬馬さんと一夜を共に過ごしたからといって、私の生活が劇的に変わることはなかった。

 たしかに、結婚した当初とは比べものにならないほど彼から親しみを感じる。でもよくよく思い返してみれば、一度だって「好きだ」とか「愛している」と言われたわけじゃない。

 一度寝たくらいで妻面をするな、ということかな。

 よい夫婦関係を演じていても、一線を越えた関係かどうかは些細な違いが出てしまうもの。ボディータッチがないとか距離があるとか、敏感な人なら私たちが見せかけの夫婦だと見破ってしまいかねない。

 私が知らないだけで、実際に彼はそう言われていたのだろうか。
 結婚したにもかかわらず、会社の前で堂々と冬馬さんに擦り寄っていた女性がいたくらいだ。あれは一例にすぎず、本当はもっとあるのかもしれない。夫婦仲が上手くいっていないのなら、つけ入る隙があると侮られて。

 契約の関係を悟らせないようにするために、冬馬さんは私を抱いた。あくまで、必要性に駆られて。

 それとも既婚者の身でほかの女性と関係を持つわけにはいかないから、妻である私をその気にさせた?

 彼の立場で、これ以上のスキャンダルは許されないだろう。せっかく持ち直した信頼も、たった一度の過ちで崩れかねない。
 冬馬さんにとって私は、合法的に手を出せる都合のいい存在だった。

 いくら不遜で冷酷に見えていても、プライベートでの彼を知ったら、そんなひどい考えを持つ人じゃないと感じている。これは私が勝手に可能性を考えただけにすぎないというのに、ズキリと胸が痛む。

 彼の本心を、聞く勇気がない。
 もし私の想像が正解だったとしても、冬馬さんを恨む気持ちはない。あの夜、恋愛感情がないとわかっていながら冬馬さんに身を任せたのは、自身なのだから。
 彼に一夜の安堵を求めたことに、後悔は微塵もない。

「はあ……」

 寝支度を済ませて、自室のベッドに座り込む。
 すでに二十三時をすぎているが、冬馬さんはまだ帰らない。あらかじめ遅くなると聞いていたけれど、ここのところずっとこうだ。ほとんど話す機会のない現状に、なんだか胸がざわめいた。

 一度関係を持ったからといって、私たちの暮らしぶりはほとんど変わらない。相変わらず、寝室は別のまま。

 やっぱり、私を抱いたのは彼の気まぐれだったのだ。
 その答えに行きついたのは、もう何度目だろうか。これ以上悩んでも堂々巡りになるだけだと、諦めて布団の中にもぐり込んだ。
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