結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 しばらく考えた後、決意を固めて重い口を開いた。

「その、父が借金をしたようで。しかも、真っ当でない相手から……」

「で?」

 先を促す冷たいひと言に、怯みそうになる。

「ここのところ、私にも返済を催促する電話がかかってきていたんです。少し前には、ついに会社の外で待ち伏せをされて」

 あからさまに顔をしかめた彼は、おそらく会長のように会社の評判に関わる話だと感じたのだろう。

 惨めになってくる。
 父親のせいでこんな状況に追い込まれた理不尽さに、握りしめていた手にさらに力がこもった。

「こんなことが続けば、会社にも迷惑がかかると私もわかっています。会長からは、進藤社長との結婚を受け入れるのなら、借金をすべて清算しようと言われました」

 父とはもうずっと顔を合わせていないというのに、血のつながりがあるだけでこんなふうに巻き込まれるのかとやるせない気持ちになる。

 社長はなにかを考えているようで、口を閉ざしたまま。気まずい、じりじりとした時間が続く。

「……はあ」

 彼からようやく発せられたのは重すぎるため息で、私は顔をうつむけ続けていた。

「青山瑞希」

「は、はい」

 再びフルネームで呼ばれて、反射的に視線を上げる。

「君に提案がある」

 なにを言われるのかと身構えた。

「事情は俺にもある。そして君と同様に、俺にも結婚願望はない。むしろプライベートで女性と関わるなど、煩わしく思っている」

 浮気疑惑は?とよぎったが、ここで聞けるわけがない。
 吐き捨てるようにそう言ったのは、なにか理由があるのだろう。
 もしかして彼は、関係を築くのが煩わしいから一夜限りの遊びを楽しんできたのか。

「社内で流れている、忌々しい噂を払拭したい。あんなものは仕事で成果を見せていけば立ち消えるだろうが、時期が悪い。近いうちに、進藤ホールディングスに移る話が出ていたところだ。あの噂のせいで、足を掬われかねない」

 栄転という意味だろう。まずは進藤ホールディングスの社長を継ぐ準備段階に入るということだろう。
 そんな大事なタイミングで、悪評が広まってしまった。副社長のように、今後も反発する人が出てもおかしくない。
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