結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
 会議が紛糾する中、広告宣伝の責任者に一本の電話が入る。至急の用件だと取り次がれ、彼女はこの場で応じながら席を立った。

「え? 月神(つきがみ)レイナ、ですか?」

 そうつぶやいて足を止めた担当者に、全員の視線が集中する。

 月神レイナといえば、ネクストアーツプロダクションに所属する、知名度がトップクラスのタレントだ。出演するドラマや映画は軒並み成功を修め、モデルとしても広く知られている。去年は〝いま最も旬の顔〟にも選ばれ、女性からの支持も高い。

「え、ええ。ありがたい提案です。早速、会議にかけさせていただきます」

 通話を終えて振り返った彼女の顔は、希望に満ちていた。

「ネクストアーツプロダクション側から、イメージキャラクターに月神レイナはどうかとの打診がありました」

 室内がざわめく。
 思わぬ大物を提示され、さっきまでの荒んだ空気は霧散した。

「すごいじゃないですか!」

「これ、もう決定でいいんじゃないです?」

 この案件は、もうどうしようもないところまできていた。会議も空中分解しそうになっていたほど。そのせいか、よく検討もないまま賛成の声があがる。

「待ってください。条件の確認も必要ですし、どういう経緯でこうなったのかを明らかにするべきです」

「俺もそう思う。またなにかあって、月神レイナもキャンセルされることにでもなったら、取り返しがつきませんよ」

 さっきまでとは違った意味で場が荒れる。完全に対立し合うような空気は、絶対によくない。

 どうにかしなくてはと思うけれど、当事者だと疑われている私の声は届かないだろう。せめて副社長がこの場を落ち着かせてくれないかと視線を向けたが、あろうことか彼は、「ありがたい提案だな」などと受け入れていた。
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