結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「副社長もこう言っていることですし……」

「簡単に決めていいことじゃない」

 ますます紛糾する中で響いたノックの音は、ほとんどの人には聞こえていなかったかもしれない。
 開きかけた扉をうかがう。

「冬馬さん……」

 目が合った瞬間、無意識に名前を呼んでいた。

 すっと目を細めた冬馬さんは、それから議長席の隣に座る副社長を一瞥した。きっと私の不安は見透かされてしまっただろう。再び私と視線を合わせた彼は、もう大丈夫だとでもいうように小さくうなずいた。

 冬馬さんは、議長を挟んで私たちとは反対側の開いた席に腰を下ろした。そうしながら、ここまでの経緯を説明させている。

 メンバーの中には、冬馬さんに鋭い視線を向ける人もいる。それは彼も気づいているだろうに、まったく意に介さない。その姿は決して不遜ではなくて、私には彼の潔白を信じる根拠に思えた。

「ネクストアーツプロダクション側の意図は不明だが」

 そう切り出した彼に、全員の視線が集まる。

「常々、あの事務所頼みのプロモーションは危険だと感じていた。笹島社長の鶴のひと声で、ほかの事務所も彼の意向に同調する。大手に睨まれると、仕事を得られなくなるらしいからな」

 まさしくその通りになっている。

「このブランドは、海外展開を見すえていたはずだ。今回の件がなくても、これまでと代わり映えしないプロモーションでは攻めの姿勢が打ち出せない」

 何人かの社員が、冬馬さんの意見にうなずいている。

「そこでだ。海外タレントの起用を検討したい」

「海外、ですか? 予算的な問題もありますし、知名度が低ければ国内向けのプロモーションは厳しいのでは?」

 疑問の声に、冬馬さんはもっともだとうなずく。

「予算は多少の無理なら大丈夫だろう。そこは私が責任を持つ。それから知名度については、話題性でカバーしたい」

 冬馬さんが登場するまでは口々に声をあげていた社員らが、すっかり彼の話に聞き入っている。
 社長はいったい誰のことを言っているのかと、皆が思案しだした。
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