結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「……そういうことか」

 混乱、好奇心、不安と、様々な感情を滲ませた視線が彼に集まる。

「つまり瑞希に離婚を強要するために、今回の契約解除を申し入れてきた。脅しだな」

「人聞きが悪いぞ、冬馬君。そもそも今回のことは、君に原因があるじゃないか。婚約中に散々浮気をして、娘を傷つけて。そんな男だとは、思わなかったよ。奈央はなあ、婚約破棄を突きつけたらさすがに冬馬君が追いかけてくるはずだと信じていたんだ」

「私はそもそも、婚約などしていませんよ」

「え?」

 思わず声をあげた私を、冬馬さんがあきれ顔で見てくる。

 驚いているのは私だけじゃない。周囲を見回すと、困惑している人が何人もいた。

「父は、私が承諾するのなら婚約を認めると言っていたはずです。奈央さんが会社まで一方的に押しかけていただけで、私は一度も婚約を認めていません」

「どういうことだ? 奈央は冬馬君に食事に連れて行ってもらったとか、バッグを買ってもらったと話していたが……違うのか?」

 笹島社長も知らなかったようで、娘に説明を求める。

「冬馬さんがそういうことをしてくれないから、惨めになって。それで、本当にそうしてくれたらいいなって思っていたことを言ったっていうか……。とにかく、進藤のおじ様が認めたんだから、婚約したも同然でしょ?」

 つまり、してもらってもいないことを、あたかも事実のようにでっち上げていただけ。最後は逆切れのように声を荒げた。

「奈央、話が違うじゃないか」

「……冬馬さんは、私と結婚したらパパの会社が確実にバックにつくってメリットがあるじゃない。だから、私と結婚するべきなのよ!」

 説明を放棄した彼女は、完全に開き直っている。

「それなのに、手近な社員と当てつけのようにさっさとくっついて。どうせ、見せかけの結婚なんでしょ。不仲だとか、ほかの女が迫ってたとか、いろいろ言われてるじゃない!」

「あの、どうしてそんな話を?」

 社内の噂を、足を運ばなくなった彼女がなぜ知っているのか。ひっかかりを覚えて、つい口を挟んでいた。

「ここの副社長よ!」

 思わず冬馬さんと顔を見合わせる。
 おそらくあの人は、冬馬さんの足を引っぱるために悪評をいろんなところで吹聴している。
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