結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「冬馬さん、あっちに行ってみましょう」

 昨日の出来事はすっかり頭の片隅に追いやられて夢中になる。

「あっ」

 足もとへの注意がおろそかになってつまずくと、すかさず冬馬さんが抱き寄せてくれた。

「あ、ありがとう、ございます」

 落ち着きのない自分自身も、密着したこの状況も恥ずかしすぎる。すぐに体を離したが、冬馬さんに手をつながれてしまう。

「こうしていれば、瑞希が思う存分はしゃいでも問題ない」

 ニヤリと、冬馬さんが意地悪な笑みを浮かべる。さらに手をぐっと握ってくるから、羞恥心で頬が熱くなってきた。

「あ、えっと……」

 だめだ、なんて言えばいいのかわからない。

 ここ数年はおひとり様を貫いてきたせいで、異性との距離感がよくわからない。スマートなかわし方も、意識なんてまったくしていませんという雰囲気のつくり方も思い浮かばない。

「ほら、行くぞ」

 指を絡ませるように握り直した冬馬さんが、軽く腕を引く。

 この状況で、景色を楽しめるだろうか。痛いほど打ちつけてくる鼓動は、絶対に気づかれたくない。

 いろいろと気にして落ち着かなかったけれど、手すりのところまでいくと、目の前に迫る海に心を奪われた。
 前のめりになり、四方を見回す。周囲をゆっくりと散策しているうちに日が暮れ始め、水平線に茜色が残る幻想的な光景が広がっていた。

「すごく……綺麗」

「そうだな」

 陳腐な言葉しか出てこないのがもどかしい。
 それでも、感じたことにすぐさま反応があると感動も大きくなる。それは冬馬さんと一緒にいるようになって気づけたこと。

 もうしばらく、この心地よい関係を手放したくない。そう思うのは私の身勝手で、一方通行な願いだ。

 無言のまま、日が沈んでいく様を眺め続ける。
< 135 / 145 >

この作品をシェア

pagetop