結婚してもおひとり様を貫きますから~俺様御曹司は孤独な契約妻に愛されたい~
「私の父がどうしようもない人なのは、前にもお話した通りです」

 情けないけれど、すべてを把握している彼を相手に隠したりごまかしたりしても仕方がない。

「父が借金を重ねるたびに、母は子どもだった私に愚痴や不満を聞かせました。自分がどれほど辛いのか。私を連れてこの家を出ていきたい。なんて、何回も何回も言うんですよ」

 おかげで、うちがどんな状態にあるのか子どもなりに理解していた。

「父は暴力をふるう人ではなかったのですが、母に対して声をあげ逆切ればかりして。母親の苦しむ顔なんて見たくなかった。だから私は、『自分が大人になったら、お母さんを連れて逃げてあげるから』って、本気で約束したんです」

 今でも覚えている。あれは幼いなりに一世一代の決心だった。

「母は目を潤ませながら喜んでくれました。でも……」

 込み上げてきた感情を抑えるように、ぐっと瞼を閉じる。

 私の苦しみを察したのか、つないでいた冬馬さんの手に力がこもった。それに後押しされるように再び瞼を開く。

「しばらくすると、母は何事もなかったかのように父を許すんです。仕方のない人だって、笑いながら」

 母の気持ちが理解できなかった。

「私にさんざん愚痴を言ったことや、一緒に逃げようと約束したのもなかったかのようにして」

 一番心を寄せる母親に、私は簡単に裏切られた。

「母は、父に依存していたんでしょうね。どんなに苦しい思いをさせられても、結局は父から離れられないんですよ。実の子どもより大切な人だから」

 愛されていなかった、とまでは言わない。

 でも母にとっての一番は父で、私の決死な覚悟はいとも簡単に踏みにじられた。本当の味方には、なってくれなかった。
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